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【三】水上―害虫駆除①

「まず君に確認したいのは、犯人……売買組織の逮捕に全面的に協力してくれるかだ」  星と名乗った白髪の刑事が、ホテルのオーナーである俺に答えを求めた。 「もちろん、協力しますよ」 「それじゃあ。まず、捜査が終わるまで誰も解雇しないこと。従業員の履歴書、防犯カメラの録画を警察に提供して欲しい」 「録画は困る。ここは組のシェルターだ。セキュリティーを強化した意味がなくなる」  龍青会の幹部が待ったをかけた。 「……それじゃ、録画をテツが調べて、証拠になりそうな部分だけ提供してもらう。茂山さん、それでいいですね」 「ホテル外で逮捕を頼むよ。評判が落ちたら、ここは潰れる」 「無論そうしますよ、水上社長。日野さんもご協力いただけますね」 「はい」  同席している時点で断れないと分かっているのに、敢えて確認を取る。この連中は青羽の正義感を逆手に取り、利用する気だ。そしてこの俺も……。  刑事はスマホで動画サイトを俺と青羽に見せた。八角形が特徴的なラブホテルの一室で、全裸に近い男女が白い粉を吸い込んでいる。明らかにうちのホテルだ。 「……403号室ですね」 「先月から数件、この部屋で薬を使用してからセックスしている動画がアップされている。君たちは何も知らない振りをして、もし怪しい物を見つけたら私に連絡してくれ」 「わかりました……」    テツを残して彼らは去って行った。青羽に夜食を頼んで、朝方まで防犯カメラの画像をテツとパソコンでチェックした。 「先週、AIは警戒アラームを三回鳴らしてますね」 「ああ。チェックしたが、パートが非常階段でスマホを確認しているだけだった。仕事中は携帯しないように注意したよ」  娘がインフルエンザにかかり心配でメールを送っていたのだが、休憩時間に確認すれば済むことだと指導して終わった。 「まずは日野君が異変に気づいた時間の録画を見せてください。客の画像を星刑事と情報屋に流します」  カチャカチャ。カチャカチャ。 「これだ」  時刻は二十二時過ぎ。プレートメニューを盆に載せた青羽が403号室の配膳ロッカーを開けている。扉を閉めてキョロキョロと周囲を見渡す仕草が不自然だ。そしてチャイムを押すと小走りで去った。 「日野君は動揺していますね。その後すぐ、あなたへ報告した」 「なぜ分かる」 「あなたが俺に電話してきたのは、この五分後だ」  テツがスマホの履歴画面を向けてきた。再びパソコンでの確認作業に戻り、403号室から出て来た若い男女の画像をテツのスマホへ転送した。傭兵風情の幼馴染は刑事達に送信を終えて、しばらく無言で画面を注視していた。  カチャカチャ。カチャカチャ。 「やはり相手は防犯カメラの位置を把握した行動をしていますね。オナニー野郎以外の不審者はいましたか?」 「テツ……お前は俺を疑っていたのか?」 「いいえ。組長も幹部も、あなたが防犯カメラを追加した時点で犯人とは無関係だと判断しています。それに恋人の調査も依頼してきたでしょう。日野君の父親が情報屋だったのには驚きましたが、バレるのを覚悟で犯罪を知らせてくれるなんて、献身的な恋人ですね」 「それで、犯人の目星はついているのか」 「実は、既に何回もあの八角形の部屋を調べてるんです。客の何組かは私の部下ですよ。警察とマトリはそれぞれ売人と接触を試みています」 「それで、薬物は見つかったのか?」 「いいえ。証拠を残さないように寸前に特殊なアプリで金銭のやり取りをし、部屋のどこかに隠し置くようです。水上社長。三つの組織と言いましたが、マトリには我々も会ったことがないんです」 「星刑事は知ってるんだろう」 「彼は【友人】ですが、全ての情報を提供できるわけじゃない。皆、犯人を捕まえて、元締めを潰したいと思っていますよ」 「組は関与していないんだな?」 「ふっ。グループ企業の売り上げは、うなぎ登りです。わざわざ危険を冒す薬物売買など必要ないんですよ。あれはチンピラが一攫千金を狙って運んでくるんです」 「青羽は、いずれビジネスホテルに移ってもらう」 「彼に協力させない気ですか」 「もう充分、役目を果たしただろう」 「監視役は何人いてもいい」 「危険な目に遭わせたくない」 「ここでカメラをチェックして不審者に気づいたら、すぐに連絡してもらえるとありがたい」 「それは探偵屋の仕事じゃないのか」 「信頼できる人間は、どこも人材不足なんですよ」

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