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【三】水上―害虫駆除②

「……十八時から零時までは、俺が社長室で監視する。だが余り当てにしないでくれ」 「従業員の履歴書のデータをもらっていきますよ。社長が怪しいと思う人物はいますか」  鍵付きロッカーからファイルを取り出すと、テツがスマホで撮影していった。 「昼間のパート連中五名と、正社員のフロント男女、青羽は違うと思う。後は、女子大学生二名」 「女子学生は水上社長のシンデレラ狙いですか」 「一人は腐女子とかいうやつだ」 「清掃チームは、出勤者が多い日だと四班に分かれる。青羽がいたAチームで怪しいのは独身中年の今泉。金のない青羽に風俗を勧めてきた」 「それは怪しい」 「あとは五十代の男女、鈴木と山本は子供の教育費を稼ぎに来ている。もうけ話を持ちかけられたら、リーダーの大学生だって食いつくかも知れないな」 「他のチームは?」 「C、Dチームは週に二日ほどしか入らない非常勤メンバーの集まりだ。Bチームの女性リーダーが気になる。彼女にビジホの正規雇用を打診したら断られたよ。ここで正社員として働きたいそうだ」 「……それは益々怪しいですね。どの女性ですか」  俺が指差した履歴書の写真は、清楚さを装いながら完璧なメイクを施した三十前後の女性が写っている。 「彼女は俺目当てかと思っていたが、そうじゃないと思えてきたよ。今夜からチェックしてみる」 「お願いします。こちらでも送られた画像は調べます」 「俺が一時でも疑われていたのは、昔ビジホを手放すのをごねたせいか」  負債の担保として、実質上は半値以下で買い取られてしまった――。 「そうです。でも、疑われない人間なんてこの世にはいません。俺だって罠にはまれば、組長に敵と認定されてしまう」 「この繁華街は害虫ではなく、魑魅魍魎ばかりいるのか……」 「ここはジャングルですよ。戦わない人間は食われてしまう」  自分のテリトリーで得体の知れない輩が違法薬物売買をしている。それもここを利用する客同士ではなく、従業員の誰かが部屋を介して商品を渡していた。ちくしょう。いますぐその害虫を殴り倒したい。  残りのデータはテツのパソコンへ転送した。ここがシェルターである以上、警察ではなく、龍青会に任せるしかないだろう――。    俺が容疑者のリストから外されたのは青羽のおかげだ。彼が大麻を知っている事に、さほどショックは受けなかった。伝達方法が多様化した現代は、学生でさえ違法薬物を容易に入手できてしまう。青羽が要らぬ知識を得たのは、クズな大人達が蔓延(はびこ)っていたからだ。  子供は自分の親を選べない――。裕福か、有能な親かは遺伝子と運が作用する。運が悪ければ戦火の国で生まれ落ち、流浪の人生を送るだろう。  彼の父親が情報屋への道を辿った経緯は知りようもないが、リストラが原因なのは明白だ。生活の基盤が強固なら危ない橋を渡る必要はない。灰色の秘密を抱えて生きてきた青羽が天真爛漫に笑っていたのは、何歳までだったのだろう――。    シャワーを浴びる気力もなくベッドに潜り込み、数時間後にキスが落とされた。  チュ。 「おはよう、透。起きられそう?」 「何時だ」 「十一時だよ」  シャワー後にダイニングでコーヒーを飲んでいたら、青羽の眉間に皺を見つけた。 「そんなに心配するな。いつも通りに働けば良い。ただ、誰も信用してはいけない」 「うん。俺達のことも内緒にしないとね」 「俺は知られても構わない」 「ショックで女子学生が辞めちゃうよ。犯人が逮捕されるまで解雇はダメっていってたろ。俺にもできることある?」 「十二時から二時間程、ここで夜中の録画をチェックしてくれるかな。気になる事があれば電話してくれ。出勤したら料理だけして欲しい。俺達は訓練を受けていない素人だ。犯人に勘づかれて逃げられたり、逆恨みで殴られては困る」 「うん。わかった」  殴られる程度なら御の字なのは、百も承知だろう。チュ。食事を運んできた彼を膝の上に乗せて、引き締まった身体に腕を回した。  プルルルル。  フロントからの内線電話が鳴り響いた。 「ほら、電話だよ」 「最近、言い知らせを聞いたことがないな」 「わっ」  抱き上げてサイドテーブルまで移動する。顎に生えた髭が青羽の頬を赤くしたが、彼は嬉しそうに笑い声を上げた。 「ハハハハ。ジョリジョリする」 「全てが落ち着いたら、鳴り子温泉の露天風呂付きの部屋に連泊しよう」 「前より豪華になってるな」 「ご褒美だよ、ご褒美」  ほら、と受話器を渡してきたので、仕方なく彼をソファーに降ろして受け取った。 「もしもし」 「社長、出勤前にすいません。いま鈴木さんから連絡があって、奥様が亡くなられたそうです」

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