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【四】青羽―犯人は誰だ?②

 刑事達と会ってから、新しいスケジュールが組み込まれた。  毎朝九時に起床し、トレーニングルームで透と汗を流してから朝食を摂る。十二時過ぎに彼がビジネスホテルへ出勤すると、俺は二時間ほど書斎のパソコンで夜中に録画された防犯カメラをチェックする。怪しい行動をしている人間がいたら、透に知らせる決まりだ。 『決して単独行動は取らないこと。法を犯す人間は何をしてくるかわからない、下手すると存在さえ消されるぞ』  懇々と言い聞かされた。赤毛のヴァイキングはWワークで疲れた俺に休養を与えるつもりが、物騒な密売人の捕り物騒ぎに引き込んで申し訳ないと謝っていた。けれども一方で、俺が繁華街の暗闇を理解していることに安堵しているようでもあった。  知りたくも、理解もしたくなかったけれどね……。  カチャカチャ。カチャカチャ。  パソコン画面は深夜零時からのホテル内を映し出した。一カメ、エレベーター異常なし。二カメ、フロントロビー異常なし。三カメ、フロントカウンター異常なし。四カメ、キッチン異常なし。  深夜時間帯は、レンチンのホットケーキセットや冷凍ピザ、冷凍たこ焼き、冷凍パスタ、パフェやアルコール類ぐらいしかメニューを載せていない。客から殆ど注文が入らないので、夜勤フロント社員が対応している。二階フロアの通路、備品倉庫、リネン室、ダストルームも異常はなし。三階から五階も同様だった。AIが感知し、警告を鳴らすまでには至らない段階の要チェック行動が二件。  一件目は非常階段でスマホをいじっているチャラ泉さんがいた。通話ではなく、メールをチェックしているようだ。一分もかからずにその場から消えた。二件目は大学生の高木君が、ダストルームでBチームの女子大生に抱きつかれていた。おっとー。ここはラブホだけど、そこはゴミ捨て場ですよ~。彼は好青年だから女性にモテそうだとは思ってたんですよね。俺は透に一目惚れだったから範疇外ですけど……。  一体誰が犯人なのか見当もつかない。毎日一人ずつ重点的に追っていくべきなのかな。透に後で相談してみよう。    ――結局、鈴木家の通夜には透だけが出掛けた。  Aチームの高木君、山本のおばちゃん、チャラ泉さんは鈴木家の訃報に驚いていたが、一週間したら復帰するとフロント社員に伝えられてホッとしていた。子だくさん鈴木さんはゴマ塩頭の優しいおじちゃんで、とても愛妻家だった。でも俺なら、子供がたくさん欲しいと言われたら躊躇するだろう。貧困から才能は生み出せないからだ。クラスメイトがピアノや塾、スイミングや絵画教室に通っていることを羨んだ時期もあった。でも食費を削ってまで行きたいのかと問われれば、ノーと答えたはずだ。これから鈴木さんは、一人で五人の子ども達を育てて行かなくてはならない。  一週間後に鈴木さんが復帰し、Aチームには俺の代わりに大学生が加わっていた。高校時代に柔道部で鍛えたマッチョな木村君は、高木君の友人だ。クリスマスを来週に控え、ホテルは『光のペイジェント』で盛り上がったカップルが押し寄せた。奈々とはメールでやり取りをする程度で、新居訪問は遠慮している。俺の新しい勤務先の電話番号は知らせておいた。子供が生まれたら、俺はどう接するべきなのだろう……。  新しい『ルキア』の看板メニューは、五目焼きそばだ。炒飯セットとペアで注文するのが最近の客達のルーティンらしい。透はこれ以上メニューを増やす気なら、人を雇うと言い張るのでやめた。 「あれ、長ネギがなくなった」  一日おきに商店街の八百屋に配達してもらっていたが、予想より消費が早かった。マズいな、これでは持たない。 「すいません、ちょっとスーパーまで長ネギを買ってきます」  コックコートの上にジャンパーを羽織り、サンダルからスニーカーに履き替える。 「あら、足りなかったの?」 「はい。すぐに戻ります」 「行ってらっしゃい」  十七時前の歓楽街はネオンが灯り、師走の雪がチラついていた。積雪の少ないこの街は、北風が頬を刺すほどに痛い。走りながら交番の巡査に手を振り、スーパーで長ネギを購入して一番街商店街を引き返した。あと一時間もすれば、常禅寺通りのケヤキに取り付けられた電飾が輝き始める。ロマンチックな『光のペイジェント』が賑わうと、カップルがどんどんホテルにやって来る。 「おい!」  すれ違いざまに俺の肩を掴んだ男は、この世で一番会いたくない人間だった。どうしよう、とぼけて逃げようか。 「お前、アサコの息子だろ。今どこにいるんだよ」 「……」  無言で手を振り払い歩き出した。 「おい、待てよ。ホモ野郎!」 「日野君?」 「今泉さん……」  勤務先の従業員に見られてしまった。見知らぬ金髪のチンピラに因縁を付けられていると思ってくれるといいが……。 「どうしたんだよ。あれ、日野君。こいつの知り合いなの?」 「おう、今泉。お前らダチなのかよ」  ――チャラ泉さんは、俺を襲った女の息子と知り合いだった!   『青羽……この街は、どこで知り合いと繋がるか分からない。だからよそで店を開こう。繁華街には近づいちゃダメだ』    虎爺さんが、あれほど警告していたのに――。俺は何故、もうそろそろ大丈夫だと思い込んでしまったんだ?  二人が会話している隙に走って逃げた。ホテル調理場にスーパーのビニール袋を置くと、社長室へ向かった。  コンコン。ガチャリ。 「社長、いいですか」  肩で息をし、額からは汗が流れ落ちてきた。 「青羽、どうしたんだ?」  透が立ち上がり近づいてくる。室内に目を走らせ、一人であることを確認してから彼に報告した。 「奈々の母親とつるんでいたサキの息子に呼び止められた。『ホモ野郎』って呼ばれたよ。そいつ、今泉さんと知り合いだったんだ」 「鍵を閉めてこっちへ」  ソファーに並んで腰掛け、かいつまんで状況を説明した。透がスマホを取り出してコーヒーテーブルに置いた。 「薬物を使用していた人間が従業員と繋がった。この事を報告しなきゃいけない」 「うん。分かってるよ」  プルルルル。

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