43 / 58
【四】青羽―犯人は誰だ?③
『もしもし』
スマホの画面は、茂山副社長の文字がディスプレイされている。
「さきほど青羽が繁華街で【山田マキ】の息子に会いました。奴は従業員の今泉と繋がっています」
『……その息子も薬物をやってたのか?』
声だけでもドスが利いていて、眉間に皺が刻まれている様が浮かんだ。目で問うと透が頷いたので、事情を説明した。
「【山田レオ】は母親にくっついて時々アパートに来ていました。ラリって義母と寝ているのを、父は知らない振りをしてました。義母の葬式後、オレオレ詐欺の容疑で捕まったって虎爺さんに教えてもらいました」
あの男は執拗に俺を追ってくる気がする。母親そっくりの吊り上がった糸目は、長い舌をチロチロとだす蛇そのものだ。
『君のお陰で害虫退治ができそうだ。申し訳ないが売人が捕まるまでは、ここから動いてはいけない』
「青羽に囮をさせる気ですか!」
透の抗議に驚いた。オーナーである彼が、一番犯人を捕まえたいはずなのに……。
『テツがこれから録画機器を持って行くので、青羽君に身につけてもらう』
有無を言わさぬ口調だ。
「……わかりました」
電話が終了すると、赤毛のヴァイキングは俺をやるせない表情で見下ろしてきた。
「青羽、申し訳ないが……」
「うん、大丈夫だよ。それよりごめん。息子が犯罪者だって伝えなくて。もうこの街にはいないって思い込んでいたよ。虎爺さんの忠告通り、よそに引っ越しておけばよかった……」
「気にするな、刑事はもう情報を掴んでいるはずだ。それよりも、今泉が知り合いだとは思わなかったろう」
「彼が売人なのかな?」
「その可能性が大きい。ホテル内に仲間もいるかもしれないな」
「でもメンバーが側で清掃していたんだ。部屋に隠す時間なんてなかったよ」
「なにか他に方法があるはずなんだ。みなを欺いて、危険な麻薬をここで売るなんて絶対に止めさせてやる」
探偵屋は十五分後にやって来ると、ポケットから小箱を出して無駄のない説明を始めた。
「これは腕時計型の録画機器です。横のボタンを一回押すとバックアップライトが青く点灯し、録画が開始されます。データはリアルタイムでうちに送信されます。二回押すと停止。長押しはスクランブル。俺と星刑事の携帯に通報がいきます。日野君、左腕を出してくれるかな」
カチリ。マッチョな探偵屋が向かいのソファーに座る俺の手首に腕時計をはめた。
「通話機能はないのか」
横で眺めていた透が俺の手を取り、秒針が時を刻むクラシカルなデザインの機器を眺めた。見かけは普通の腕時計だ。ベルトのジョイント部分を触ったが、解除されない。
「それは今制作中です。あ、日野君。それは特殊なドライバーがないと外せないんだ。防水だから風呂もそのままで大丈夫だよ」
「おい、自分で外せないのか」
「水上社長、そんなに怒らないでください。勤務中は音声だけでも送ってください。怪しい行動を見たら、袖をまくって録画すればいいんです」
「青羽を危険な目に遭わせる気か」
「透、きっと山田は俺に近づいてくると思う。すごく嫌な笑い方をしたんだ。俺が山田の母親に迫られて勃起しなかったって今泉さんにバラしたんじゃないかな」
「それをネタに脅されたらどうする?」
「交際相手がいる、と毅然とした態度で否定してください」
探偵屋が俺にアドバイスをする。
「信じてくれるかな」
「青羽、これを」
「え……」
「母親の形見なんだが、これをはめておくといい」
手のひらにはプラチナのリングが輝いていた。繊細なカットが施された高級品だと一目で分かる。
「実は、青羽が寝ている時にサイズを測ったんだ」
なんだってー?
「うん、それなら本気の相手がいると納得するでしょうね」
探偵屋が頷いている横で、赤毛のヴァイキングはササッと俺の左薬指に装着してしまったぞ!
「日野君、【山田レオ】について知っていることを話してくれ」
探偵屋がスマホのレコーダーをオンにしてコーヒーテーブルに置いた。
「はい。【山田レオ】は俺の三歳年上です。父が仕事に出掛けると山田マキが高校生の息子と一緒にアパートへやって来て、酒を飲んでドラッグを服用しセックスしてました。父は知らぬ振りを通して、死ぬまで義母と暮らしてました」
「十代でドラッグに手を出してたのか」
「はい。義母はあの親子と出会ってから変わりました。父の死後も男達に貢がせた宝石やブランド品で薬代を払っていました」
「義妹はどうしていたんだ?」
「父の死後住民に通報されてから、義母は山田マキのマンションで薬物を使用していました。唯一の救いは、義母は奈々をあの男に与えなかった事です。奈々はいつも大家さんの部屋に避難していました」
そろそろチェックインした客から注文が入る時間なので調理場に戻った。
ともだちにシェアしよう!

