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拝啓、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。
◇
進路希望調査を出した翌週から、慧司への告白が今までよりもっと増えた。
みんな考えることは同じなのかもしれない。離れる前に伝えたいとか、残りの高校生活を慧司との思い出でいっぱいにしたいとか。
慧司はやっぱり誰とも付き合わなかった。けれど、断る前に必ず決まった質問をしているらしい。
女子たちが何度もその話をするものだから、それが噂話として広がっているようだった。
大真も色んな人からその話を聞かされた。
『この手紙をくれたのはキミ?』
『俺はこの手紙をくれた子が気になっていて、その子を探しているんだけど』
慧司が告白してくる女子たちにその噂通りの質問をしている姿を想像して、大真は申し訳ない気持ちになった。
聞いたところで、誰かが嘘をつかない限り、「私が書いた」と名乗り出る人はいないのだから。
自分の机に肘をつき、廊下側の窓にもたれながら祥太郎と雑談している慧司を見つめた。
何を話しているかは聞こえないけれど、時々祥太郎に肘で叩かれている慧司は、楽しそうに笑っている。
(送り主が実は俺でしたと知ったとき、慧司はどう思うんだろう……)
今さら「俺が書きました」とは言えないし、このまま秘密にしているほうが良い。
大真は、誰が告白して振られただの、次は誰が告白する予定だなどと話している女子たちのほうへ視線を移し、ぼーっと見つめた。
「大真、帰るぞ」
放課後、慧司にいつものように声をかけられた大真は少し気まずい気持ちで靴箱へと向かった。
この後何する? と慧司から話が振られることがないまま靴箱に着いたから、今日はただ一緒に帰るだけなのだろう。
(まあ、最近は一緒にいても「お前勉強しろよな」「落ちたら許さねえ」しか言われないから、黙って受験勉強をするべきだよな)
「あの……!」
靴箱にスリッパを入れ、靴に持ち替えたところで、背後から可愛らしい声が聞こえた。
振り返ると、隣のクラスの女子が、頬を赤らめて慧司を見ていた。
大真はその子に見覚えがあった。
名前は知らないけれど、確か少し前に廊下を歩いている慧司を見て、ヒソヒソ話をしていた女子の中にいた子だ。
きっと今から慧司に告白するに違いない。
「……何?」
大真は、慧司のあまりに冷たい返事にギョッとして目をパチパチと動かした。
慧司の声は、話しかけてきた女の子に対して、ふさわしくないくらい低かった。
女の子もまさかそんな反応をされるとは思っていなかったようで、「……え」と戸惑った声を漏らした。
(慧司、珍しい。いつもはもっと優しく聞いてあげているのに)
大真は、なんだかその子が可哀想に思えた。傷ついていないかなと、心配な気持ちも出てくる。
もし慧司がこの子と付き合うことになれば、こうして同情したことを後悔するだろうに。
(……こういう可愛い子が俺の敵なんだなあ。いや、俺は告白できないから同じ土俵に立ってないし、この子からしたら俺は敵でもないのか)
「お話良いかな……」
大真がぐるぐると一人で考えていると、その子がちらりと視線を向けてきた。まるで、どこかに去ってくれと、そういうメッセージを含んでいるように思える。
自分の同情は一切不要だったと、大真は勝手に気まずくなった。この女の子は、見た目より内面が強いタイプなのかも。
「……じゃあ俺、先行ってるわ」
その子の視線を無視してこの場に居座る図々しさもなければ、慧司の告白場面を見続ける勇気もない。
大真は靴を履き、慧司の顔をあまり見ないようにしながら、軽く手を振って外に出た。
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