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背景、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。
「おっ、慧司、ラブレターか?」
「モテモテだねえ」
登校してきたクラスメイトの響 と祥太郎 が、慧司とその横にいる大真を囲んだ。
(だからここで読まれるのが嫌だったんだ)
人懐こい祥太郎は、面白がりながら慧司が持っている手紙を覗き込んだ。
(読まないで……!)
祥太郎は少しおちゃらけたところがあるから、もしかしたら声に出して読み始めるかもしれない。
大真は読まれたくないと焦った。押しのけようと手を伸ばしたけれど、祥太郎は本気で読みたがっていたわけではないようで、冷やかし終えたらさっさと教室へ行ってしまった。
慧司は、まだ読み続けている。
(俺はそんなに長い手紙を書いたっけ? ああもう、また誰かが来るかもしれないのに)
大真は、早く行くぞと再度慧司の腕を引っ張ってみたけれど、慧司はびくともしなかった。
「もう少しだから、ここまで読ませて」
結局大真は、阿呆みたいに突っ立って待つしかできなかった。
それから数十秒後、慧司は元の折り目通りに手紙を畳むと、入っていた封筒へと戻した。
ふう、と決してネガティブな空気感ではないため息をつき、やはりゆっくりと口角を上げる。
「気持ちが伝わる手紙だった。匿名だなんてもったいないくらい」
「……珍しいな」
慧司はこれまでも、何度も告白されてきた。その度に「ありがとう」と困ったように笑い、「でもごめんね」と丁寧に断るだけだった。
照れたり嬉しそうな顔をすることは一度もなかったのに、今日の慧司は違った。こんな表情は見たことがないと、その様子に大真は動揺した。
今までだって何度も告白されてきた。
(何で少し嬉しそうなんだよ)
「今まで、俺の表面だけを見て告白してくる子たちとは全然違った。この子、誰なんだろうな」
「そんなに……?」
喉が張りつく。やっと絞り出した声は、自分でも分かるほど震えていた。大真の握りしめている手に、爪がぐいと食い込む。
慧司は手紙から顔を上げると、何も言わずに大真を見つめた。
その視線の意味が分からない。
動揺と混乱で、大真の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
(俺の気持ちが慧司に伝わったことは素直に嬉しいけどさあ……)
ただ、手紙で伝えられただけで、送り主の分からない手紙から何かが始まるわけではない。
仮に自分からの手紙だと慧司が知れば、受け止めてもらえず、気持ちが伝わると喜んでもらえたこの手紙も捨てられるかもしれない。
そういう、考え出したらキリのない思考が、ぐるぐると大真の頭の中をうごめいていた。
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