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背景、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。
手紙に視線を落とした慧司の、文字を追いながら揺れるまつ毛を見ていると、大真は変な冷や汗をかいた。
手のひらに爪が食い込むほどに指を握りしめる。
それから、お前だってそのほうが良いだろ、とそう言った慧司の言葉を頭の中で繰り返した。
(……どういうことだ? まさか、バレた……!? その手紙は俺が書いたって)
「……っ、」
(いや、さすがにそれはないか)
気持ちが伝わるように心を込めて書いたけれど、大真はその気持ちの持ち主が自分だと知ってほしいわけではなかった。
だから、普段の字体からわざと変え、綴る言葉の口調も柔らかくした。
女子ほど丁寧な字は書けないから、女子の字だと誤魔化すことはできなくても、自分からだとバレなければそれで良いと思っていた。
慧司くんへ、慧司さんへ……。
宛名を書くのか、書かないのか、書くとしたら何と書くべきか、それを決めるのにだって相当な時間をかけた。
糊付けした後で、そこに可愛いシールでも貼れば、ますます自分からだとは思われなくなるだろうと、大真は雑貨屋に行って女子が好きそうな柄のシールまで購入したほどだ。
それでも、大真から全くかけ離れた人を想像してほしいわけでもないという矛盾した気持ちから、せっかく購入したシールは貼れないままで終わった。
「……で、何て書いてあるんだよ?」
バレるな、バレるな、と何度も心の中で叫びながら、実際に口から出る言葉はできるだけ平然を装う。
「まあ、そんなに急かすなって」
慧司はうっすら笑みを浮かべながらそう言うと、視線をゆっくりと動かして読み続ける。
(目の前で読まれるなんて、耐えられない!)
「俺、もう先に行ってるぞ」
「だから待てってば」
大真はあまりにも気まずくなり、すぐにでもその場を去りたい気持ちになった。
まさか、慧司がここで読み始めるとは思っていなかったから。
大真は落ちかけていた鞄の紐を肩に掛け直し、慧司に背中を向けた。
そんな大真の腕を、慧司にはぐっと力を込めて引っ張る。
「待てって」
慧司は手紙から視線をずらすと、大真を見つめた。
慧司のその意図が分かりにくいその視線と、少しだけ上がった左の口角のせいで、大真は何だか従わなければいけない気持ちになる。
(くそ……!)
「分かったよ。早く読め、バカ」
大真は可愛くない返事をして、慧司の横に立って待つしかなかった。
慧司は、誰からのものなのか分かっていないその手紙を、大切そうに読み続けている。
そういう様子を見て、大真はやはり腹が立ちながらも、素直に従ってここにいる自分は阿呆なのかもしれないと思った。
こんなふうに読んでほしくはなかったし、慧司が読む姿も見たくなかった。
(俺からの手紙だと伝えた上でこの態度なら、そりゃあ嬉しいけどさ……)
大真は、送り主が分からない手紙を大切に読む彼を知りたくはなかった。
かといって、雑に読んでほしいわけでもないし、そんな姿を見たら見たで、また不満が出てくるのだろうけれど。
(オトメゴコロは難しいとよく言うが、俺のココロだって負けないくらい難しいに違いない)
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