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背景、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。
「不器用な人なのかな」
その糊付けのあとを見て、慧司はまた笑みを浮かべる。
「な? お前もそう思うだろ?」と、慧司はわざわざ大真の顔を覗き込み、手紙に対するリアクションを求めた。
(この話題からは避けられないか……)
少し諦めた様子で、大真は慧司へと視線を戻した。
「……その手紙に宛名は? 書いてあるのか?」
「いや? 何もないね」
「じゃあどうして、お前宛だって分かるわけ?」
「反対に聞くけど、俺宛じゃないと思うのはどうして?」
靴箱の持ち主に宛てたものだと理解することが一般的とはいえ、どうして自分に? もしかして誰かと間違えた? などと一切気にする様子のない慧司のことを、大真は気に入らない気持ちで睨むように視線を向けた。
慧司は、開けてみるまで誰が誰に書いた手紙なのか分からないのに、自分宛だと確信していて、さらには、読む前からその手紙がラブレターだということにも気づいているのだろう。
そしてそれがラブレターだったとして、手紙をもらってもちっとも動揺していない。
そういう告白には慣れていますとでもいうような慧司の態度も、大真にとって面白くなかった。
(フン……! 普段からモテるやつは違うな!)
「今どき、靴箱に手紙を入れる人なんているんだな。直接とかメッセージが送られてくることはあっても、高校生になって手紙は初めてだわ」
慧司は、握ったままだった靴をやっと靴箱に入れ、それから上の段に置いているスリッパを取り出した。
パタンッと音がして、スリッパの底が床にぶつかる。
高さがあるところから落とすようにして床に置いたものだから、スリッパの向きがずれてしまっていた。
けれど、慧司はいちいち下を見て確認することもなく、さらっと足先で向きを変えてスリッパを履く。
慧司の視線は手紙に向けられたままだ。
大真はそんな彼から視線を逸らし、スリッパを丁寧に床に置いた。
それに足を入れれば、少しだけひんやりとする。
(いつまでもこの話題は気まずい。何か話して流れを変えないと)
「……今日の一限って、だるいよなあ」
大真は考えてみたものの、特に話題も言葉も見つからなかった。
発せられた言葉はどうでもいい一言のみ。
それでも何か反応があるかもしれないと、大真はゆっくりと慧司に視線を戻してみたが、そんな大真に構うことなく、慧司は目の前で手紙の封を開けた。
スリッパは雑に置いたくせに、封を開ける彼の手は優しかった。
不器用に糊付けされたそれを、できるだけ破れないようにと慎重に扱っている。
(……むかつく)
「お前、ここで読むのか? 人が来るかもしれないのに? 俺もいるのに?」
「だって、早く読んだほうが良いだろ」
「え、何で?」
「なんとなくだよ。お前だって、そのほうが良いだろ」
「はあ?」
ふっと笑った慧司を、朝陽が照らした。
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