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背景、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。

 あるとき、大真は我慢の限界に達し、「もう俺らは一緒じゃなくていいだろ。お前も取っ替え引っ替えしていないで、真剣にひとりと付き合え!」と慧司に怒鳴ってしまったことがあった。  そんなに誰でも良いのなら、俺でも構わないじゃないかと、そんな気持ちがわくようになったからだ。  大真は、慧司にはこの人しかいないと、そう思えるような人と付き合ってくれと願っていた。  けれど、いつまで経ってもそうしない慧司に腹が立った。  真剣な大真に、慧司は「そんな人を作って良いのか」と投げかけた。慧司に少し睨むような視線を向けられた大真は、「好きにしろ! このヤリチンが!」と叫んだ。  言葉通り受け取られれば「そんな人を作って良いのか」と言われても仕方がない。ある意味大真が引き出した言葉だった。  けれど、実際はそんな人を作ってほしいわけじゃないかった。  それでも、大真には「誰とも付き合わないで」「俺にしてよ」と言う勇気はないから、ヤリチンだなんて大真にとって汚い言葉で返すしかなかった。  必死に言い返した大真を見て、慧司は目元を緩め、それから「あはは!」と腹を抱えて笑った。  理由が分からないその慧司の態度ら、さらに大真を苛立たせた。  しばらくして、慧司は誰とも付き合わなくなった。  告白されなくなったわけでも、慧司の悪い噂が立ったわけでもないのに。  次に誰かと付き合うときは、慧司にとって本当に良い人なのかもしれない。  大真は慧司が誰とも付き合わなくなったことは嬉しかったけれど、いつか慧司に心から大切な存在ができるかもしれないことを恐れる気持ちもあった。  その後も、慧司は変わらず定期的に告白され続けていたし、いつもクラスメイトにも囲まれて過ごしていた。ただ一つ変わったのは、彼の隣に彼女がいなくなったことだけだった。  大真と慧司の関係性も彼女がいなくなってその分過ごせる時間が増えた以外は何も変わらなかった。  お互いの家に集まっては、ダラダラと勉強したり、誰々が喧嘩しただの、先生がウザいだの、そういうくだらない話をしていた。  ゲームの攻略法を一緒に調べ、いざ始めるぞというタイミングで母親にしつこく「ご飯だから下りてきなさい!」としつこく言われ、渋々切り上げてたり。  いつの間にか夜になり、すぐに帰れる距離なのにも関わらず、慧司に当たり前に「泊まりでいいよな?」と言われ、そのまま泊まりになることもあった。  大真は、そんな些細な日常がいつまでも続きますようにと願いながら、慧司と共に過ごしていた。  結局、真剣に付き合えと言った大真の言葉の何が慧司に刺さったのか、そもそも大真のせいなのか、何も分からないままだった。  けれど、慧司と肩を並べて歩くことが大真には特権のように思えて優越感があった。  そうして今、高校三年生になり、いよいよ進路の話を本格的に決めなければならない時期に差し掛かってきた。  大真は、慧司と離れることが現実になりつつある中で、その前にやれることはやったんだと、そう思いたくなったから手紙を書いた。  気持ちを伝えて、受験を控える今後の慧司に何か悪い影響を与えることはしたくなかったし、大真も傷つくことになると分かっていて、あえて飛び込むことはできなかった。  だから、二人の関係を壊さないままで、それでも気持ちを伝えるには、こうして匿名でそっと渡すことが大真にとって精一杯だった。 (全て、俺のエゴでしかないんだけどね)  拝啓、愛しのキミへ。匿名だから許してください。  大真は、こんなことをしても気持ちがすっきりするわけではないけれど、それでもひとつ、自分の気持ちに区切りをつけられて良かったと思った。  

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