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拝啓、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。
とりあえず飲み物を取ってくると言い、慧司を部屋に残して冷蔵庫を見に行った。
家族の誰がいつ購入したのか分からないペットボトルの賞味期限を確認し、それを数本脇に挟むと、右手でコップを二つ持った。
階段をのぼりながら、勝手にペットボトルを開けていいのか? と一瞬怒鳴る母親の顔が浮かび気になったが、これから慧司との間に控えている内容に比べれば大したことないと、すぐに頭から消した。
肘でドアハンドルを押し、足で扉を開けた。
慧司は先に、持って来た情報誌を眺めている。
情報誌をめくる慧司は、さっきまでと違って妙に真剣だった。
「飲み物、これで良い?」
「お前、ペットボトルって、これ……おばさん怒らない?」
「……知らん」
「雑だな」
おばさん怒ったら怖いだろと笑いながら、慧司は自分でコップに飲み物を移した。それからついでに大真の分まで注いでくれる。
慧司の正面に座るのは緊張するからと、大真は少し離れて横に座った。
「おい、もっとこっち来いって」
「ええ? いいよ、ここからでも見えるし」
「お前の進路決めるんだから、お前がメインで見るんだよ」
「はあ? 俺の? そんなんいらんわ」
慧司はずば抜けて頭が良いから、遠くの有名大学に行くことは、大真だけではなくクラス中が知っている。
受験はこれからとはいえ、志望校を決め終えたはずの慧司が、どうして自分の進路先を一緒に考えるんだ? と、大真は混乱した。
考えなくても楽しい話でないことは分かる。
大真はどうしても慧司の近くに行きたくなかったし、雑誌も積極的に見たくなかった。
しばらくお尻を床につけたまま動かないでいると、情報誌ごと慧司が寄って来た。
お互いの肩がぶつかる。
大真は至近距離で慧司に見つめられ、気まずくなって顔を逸らした。
(慧司に見られたら、どうしていいか分からん……)
視点が定まらない大真は、クローゼットのドアの隙間からはみ出ている、さっき雑に押し込んだ服の一部を見つめた。
「……慧司、俺はバカだから、お前と一緒の大学は無理だぞ」
「当たり前だろ。お前がどんなに今から頑張ったって、俺に追いつけるはずがないからな」
「いや、それは言いすぎだろ」
自分でバカと表現したものの、慧司に言われるとなぜか腹が立つ。
とはいえ、至近距離でいるせいで、制服のシャツ越しに当たる慧司の肩から体温が混ざり合い、それに気を取られてほとんど言い返せなかった。
大真は数分耐えたけれど、さすがに近すぎるだろと、慧司を押して立ち上がった。
「おい、どこ行くんだよ」
「どこにも行かねえよ。慧司の正面に座んの!」
離れようとした大真の手首を、慧司が咄嗟に掴む。急に掴まれた大真はバランスを崩し、後ろのベッドに背中から倒れ込んだ。
白い天井が見えたのは一瞬で、すぐに慧司の顔が視界を覆う。
「正面に座ったら、文字が読みにくいだろうが」
慧司も立ち上がり、倒れた大真をを引っ張る。
掴まれたままの手首が、ジリジリと焼けるように熱く感じた。
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