16 / 80
拝啓、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。
慧司は鞄を掛け直すと、かたまったままの女の子に何のフォローもすることなく背を向けた。
靴を履き始めた慧司を見て、大真は急いで昇降口から距離をとった。
校門までいけば大丈夫だろうか。聞き耳を立てていたことがバレないようにしないと。
大真は、昇降口近くにある銅像の後ろにいったん隠れた。そこから、聞こえるわけもないのに足音がしないと意識しながら校門まで走った。
しばらくして校門にやってきた慧司は、大真の顔を見るなりニヤリと笑った。
「聞いてたでしょ?」
「え?」
そのニヤリ顔を見て、慧司の告白現場を見ていた大真のことなんてお見通しだと、そう言われたような気持ちになった。
大真は気まずさを感じ、制服の袖の中に指を隠した。
(聞いてないって言っても、もうバレてんだろうな)
「好きで聞いてたわけじゃ……」
最大限の言い訳で乗り切ろうとしたものの、慧司には信じてもらえなかった。
「ははっ、どうだかなあ。好きで聞いてたんだろ?」
(うわ……)
てっきり怒られるかと思ったが、慧司は笑っていた。
それも、女の子に向けていたものとは全く違う、いつもの声だった。
大真の気まずさは一瞬で消え去り、なぜか安心感すらある。
大真がほっとしていると、慧司は大真の手首を掴んで歩き出した。
慧司に引っ張られ、さっきまで身体がかたまっていたのが嘘みたいに、自然と足が前に出る。
「大真、お前は分かった?」
「……何を?」
「さっきの子が、嘘ついてるかどうか」
「さっきの……。あのさあ、お前なあ、さすがにあれは言い過ぎじゃないか?」
危うく自分の気持ちを横取りされるところだったのに、大真は咄嗟に女の子を庇う言葉を口にした。
慧司は「そう? 嘘つくのが悪いんじゃん」と、声に不機嫌さを滲ませた。
「何だよ……」
安心感が消え去り、また気まずさが戻ってきた。大真は足元にあった石ころを蹴飛ばす。
コロコロと転がっていたそれは、知らない人の家の駐車場へと入って行った。
「何って……。大真は女子を庇うんだなあって思っただけ」
「だって、慧司があまりにも怖い感じで言うからさ」
大真は落ち着かなくなって、俯いてまた石を探した。けれど、蹴るのにちょうどいい石はもう落ちていない。
この状況を変えられるほど、面白い話題も思いつかない。
「あ、そういえば今日の宿題さ……」
苦し紛れに呟いた言葉を、勢いよく吹いた風が攫っていく。
(何でこんなに晴れてんの。雨でも降ってくれたら走って帰ってこの状況から逃げられるのに……)
下ばかり見て歩いていたら、ちょうどいいサイズの石を見つけた。
少し気が紛れるかも。
大真が再び蹴ろうとしたとき、大真の手を引きながら少しだけ先を歩いていた慧司が歩くのをやめた。
ともだちにシェアしよう!

