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拝啓、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。
「ンフ……!」
慧司が急に立ち止まったせいで、大真は彼の背中にぶつかった。
「痛い」と言いながら鼻を押さえる大真を見て、心配して声をかけることもないまま、慧司は鞄から何かを取り出した。
(心配せずに何を見せてくる気だよ……)
「うえ!」
大真の前に差し出されたそれは、大真が書いた手紙だった。宛名も何もない、白い封筒を見て、大真は反射的に受け取ってしまう。
数枚の紙しか入っていないその封筒が、何だか重く感じた。
「えっ……」
「お前はどう思う?」
「……な、にが?」
「この手紙の送り主だよ。誰だか分かるか?」
(まさかここで、自分があげた手紙を渡されるとは思うか!? どういうつもりだよ……!)
手紙を持っている大真の手に大量の汗が滲む。
不器用ながらに丁寧に糊付けしたあとが見え、大真はこの言葉を綴った日のことを思い出した。
あのときは、こうして慧司が毎日鞄に入れるだとか、送り主を探そうとするだとか、ちっとも予想できなかった。
(慧司、お前……、今どんな表情をしてる? それで俺は今、どんな顔でお前を見ればいいの)
顔を上げる勇気はないから、大真はただただ自分が書いた手紙を見つめるしかなかった。
「……そもそもお前、この手紙持ち歩いてんのかよ」
「送り主がいつ名乗り出てくれても良いようにな」
「へえ……」
大真がまともな返しが何一つできないまま、渡された手紙を握りしめていると、シワになるだろと慧司が取り上げ鞄にしまった。
「大真」
「……な、に」
「俺、嘘つかれたら分かるんだよ」
「……ははっ、そうかよ。じゃあ今日みたいに私が書いたって嘘つかれても、見抜けるっていうなら大丈夫だな」
大真は、怪しさしかない返事を早口で伝えた。
「大真」
「な、に……!」
慧司は大真の頬を両手で包み込むと、無理やり顔を上げさせた。強引に大真に触れたくせに、慧司が大真を見つめる視線は優しかった。
(慧司、何がしたいんだよ……。顔、あっちい)
見せたくなかった顔を慧司に見せるしかない状況に、大真の頬の熱が上がっていく。
(こんなの、慧司に変に思われる……!)
「……手紙、誰が書いたんだろうな? いつか分かるかな。すげえ楽しみ」
慧司はそう言うと、少しだけ口元を緩めた。それはいつもの、何を考えているのか分からない笑い方だった。
オレンジ色の夕陽が、慧司を温かく照らしている。
大真は、熱を帯びたままの自分の頬を、手の甲で押さえた。どうかこの顔の熱を、夕陽が誤魔化してくれますように。
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