17 / 80

拝啓、愛しのキミヘ。匿名だから許してください。

「ンフ……!」  慧司が急に立ち止まったせいで、大真は彼の背中にぶつかった。  「痛い」と言いながら鼻を押さえる大真を見て、心配して声をかけることもないまま、慧司は鞄から何かを取り出した。 (心配せずに何を見せてくる気だよ……) 「うえ!」  大真の前に差し出されたそれは、大真が書いた手紙だった。宛名も何もない、白い封筒を見て、大真は反射的に受け取ってしまう。  数枚の紙しか入っていないその封筒が、何だか重く感じた。 「えっ……」 「お前はどう思う?」 「……な、にが?」 「この手紙の送り主だよ。誰だか分かるか?」 (まさかここで、自分があげた手紙を渡されるとは思うか!? どういうつもりだよ……!)    手紙を持っている大真の手に大量の汗が滲む。    不器用ながらに丁寧に糊付けしたあとが見え、大真はこの言葉を綴った日のことを思い出した。  あのときは、こうして慧司が毎日鞄に入れるだとか、送り主を探そうとするだとか、ちっとも予想できなかった。 (慧司、お前……、今どんな表情をしてる? それで俺は今、どんな顔でお前を見ればいいの)  顔を上げる勇気はないから、大真はただただ自分が書いた手紙を見つめるしかなかった。 「……そもそもお前、この手紙持ち歩いてんのかよ」 「送り主がいつ名乗り出てくれても良いようにな」 「へえ……」    大真がまともな返しが何一つできないまま、渡された手紙を握りしめていると、シワになるだろと慧司が取り上げ鞄にしまった。 「大真」 「……な、に」 「俺、嘘つかれたら分かるんだよ」 「……ははっ、そうかよ。じゃあ今日みたいに私が書いたって嘘つかれても、見抜けるっていうなら大丈夫だな」  大真は、怪しさしかない返事を早口で伝えた。 「大真」 「な、に……!」  慧司は大真の頬を両手で包み込むと、無理やり顔を上げさせた。強引に大真に触れたくせに、慧司が大真を見つめる視線は優しかった。 (慧司、何がしたいんだよ……。顔、あっちい)  見せたくなかった顔を慧司に見せるしかない状況に、大真の頬の熱が上がっていく。 (こんなの、慧司に変に思われる……!) 「……手紙、誰が書いたんだろうな? いつか分かるかな。すげえ楽しみ」  慧司はそう言うと、少しだけ口元を緩めた。それはいつもの、何を考えているのか分からない笑い方だった。  オレンジ色の夕陽が、慧司を温かく照らしている。  大真は、熱を帯びたままの自分の頬を、手の甲で押さえた。どうかこの顔の熱を、夕陽が誤魔化してくれますように。

ともだちにシェアしよう!