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キミへの気持ちは手紙にのせるから、覚悟して受け取って。
祥太郎は、サッカー部の先輩で、大生のことを誰よりも可愛がってくれた人だった。
けれど、夏で引退してしまった。引退した先輩たちは、ほとんど部に顔を出さない。
だからお互いの教室に行く以外に、大生たちには学校での接点はあまりなかった。
先輩が部にいた頃は、部活動が休みの日以外は毎日会えていたのに。今はそのときほどは気軽には会えない。
大生はそれがショックで、家で一人泣いたこともあったくらいだ。
でも、先輩が勉強を教えようか? と提案してくれ、部活動以外でも関係が続いている。
部活動が休みの毎週水曜日だけは、大生にとって特別な日で、朝から楽しみだった。
「大生〜!」
どうやら祥太郎は隣の教室にいたようだ。廊下の窓から顔を出して手を振っている彼に、大生も笑顔で振り返した。
祥太郎が大きな声で名前を呼ぶものだから、その声を聞いて何人かが振り向いた。
下級生? 誰だ? とでもいうように、大生を見つめる。
大生は、さっきまでできるだけ目立ちたくないと思っていたけれど、先輩と会えたことが嬉しくて、今はそれほど気にならなかった。
祥太郎はすぐに隣の教室を出ると、非常階段前にいる大生のもとへと走って来た。
「廊下は走りませ〜ん!」と揶揄ってくる友人だろう人に、「うるせ〜!」と祥太郎はあっかんべーをする。
先輩らしからぬ一面に、大生は思わず笑ってしまった。
「大生ちゃん、何笑ってんの」
「いや、先輩が可愛くて」
「可愛いって言われても嬉しくない。かっこいいって言って」
大生のもとへ来るまでに、かっこいい場面なんてあっただろうか。
そんなことを言う先輩もまた可愛くて、大生の頬は緩みっぱなしだった。
「そんなに笑ってると、こうしちゃうぞ〜?」
「……あ!」
大生が構える前に、両手を広げた先輩に抱きしめられた。
大生の顔は先輩の胸に押さえつけられ、視界が真っ暗になる。
先輩からは、ふわっと優しい香りがした。その匂いに、大生の心臓が大きく跳ねた。
「……また、ですか?」
「だってさ〜」
またですか、と言いながらも、今回もそうしてもらえたことに、大生は嬉しさを感じていた。
(さっき先輩を揶揄ってきた人に見られているかも……。それ以外の人にも……)
抱き合っている二人を見て、誰かに何かを言われるかもしれない。変に目立ってしまいそうだと気になる気持ちもあった。
それでもやっぱり、こうして触れてもらえることが大生にとっては何よりも大切だった。
先輩に抱きしめられたことで、ただの廊下の隅だったこの場所が、大生にとってはキラキラしたステージのように感じられた。
(もうどうにでもなれ……!)
初めて先輩に抱きしめられたのは、部活動中だった。走り込みで疲れた先輩が「エネルギーチャージさせて」と肩にもたれかかってきた。
大生は緊張で肩が強張ってしまい、それに気づいた先輩に「大生ちゃん身体かたいよ〜、リラックス!」と正面からハグされた。
それ以降も当たり前のように触れられ続け、いつの間にか日課のようになっていた。
祥太郎にとって大生は、どうやらぬいぐるみ的な役割らしい。
そう理解してからは、大生も素直に受け入れることにしていた。
(誰かに揶揄われても、先輩がどうにかしてくれるはず)
今はこの水曜日しか触れられないのだから、思う存分味わうべきだ。
大生は、先輩の胸元に、自ら頬を擦り寄せた。手を回し、先輩の背中をトントンと叩いた。
(はあ……好き……)
せめて、この自然と緩んでしまう口元だけは、誰にも見られないように隠しておこう。
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