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キミへの気持ちは手紙にのせるから、覚悟して受け取って。
祥太郎の家は、学校から徒歩十分もかからない距離にある。あっという間に家に着いた。
その短い時間でさえ会話が尽きることはなかった。
けれど、大生はまだキスを引きずっていた。正直何の会話をしながら家まで来たのか、ほとんど覚えていない。
「お邪魔します……」
「どーぞ」
「……って、わあ!」
ガシャン! と大きな音がした。
大生の鞄がぶつかったようで、玄関の隅に置かれていた傘立てが倒れた。
「すみません……!」
倒れた傘立てを戻しながら、大生は謝った。
そういえば、初めて祥太郎の家に来たときも同じように傘立てを倒したな。
(二回目だ……)
「お前、前もそれ倒したよな」
「覚えてるんですか?」
「大生のことは全部覚えてる。お邪魔しますって言うところを、お邪魔しまし! って噛んだこともね」
「う……それは覚えられていても嬉しくないです」
「ははっ、可愛いからいいじゃん。てか、傘引っかかって怪我してない?」
「怪我は、ないです……」
何が可愛いのか分からないエピソードだったけれど、先輩が覚えていてくれたことは嬉しかった。
ここじゃなくて外に置いたほうがいいと思うんだよなーと言いながら、祥太郎は隙間ができないように傘立てを壁に向かって押した。
大生は邪魔にならないように、先に靴を脱いで上がる。
「親はまだ帰って来ないし、今日もあと一時間くらいは大丈夫だからな」
「はい……、僕もそのくらいまで大丈夫です」
祥太郎は靴を脱ぐと、玄関の隅に靴を揃えて置いた。
キスのことで頭がいっぱいだったのに、傘立てにもぶつかり、噛んだ話を持ち出されて、大生の気持ちはちっとも落ち着かなかった。
頬の熱も引いている気がしない。
玄関先が少しだけひんやりしていることだけが今は救いだった。
(僕だけがこんなに緊張してる。僕だけがキスを意識してるみたい……)
二階に上がり、祥太郎の部屋に入った。学校を出るときに言ってくれていた通り、祥太郎は真っ先にクーラーをつけてくれた。
「しばらくしたら涼しくなると思う。先に座ってて。俺、飲み物取ってくるから」
「ありがとうございます」
祥太郎に言われた通り、大生はカーペットの上に座った。置いてあったクッションを抱く。
ベッドにもたれかかりながら、先週と何も変わっていない部屋を、ぐるりと眺めた。
祥太郎の部屋は、ほとんど物がなくてとてもシンプルな部屋だった。
学習机、ベッド、漫画棚、ラック、それから目の前にあるローテーブル。
家具の色はダークブラウンで、カーテンとカーペットはネイビー。落ち着いた色味で統一されていて、明るい性格の祥太郎とギャップがあった。
「いつ来ても綺麗な部屋。前と何も変わっていない……」
この部屋は先週と何も変わっていない。
……だから、僕たちだって何も変わっていないはず。
そう思うと、少しだけ鼻の奥がつんとした。
(頬にキスされたくらいで、期待なんかしたらダメだ)
大生は、自分の胸を思い切り叩く。
クーラーが効いてきて、だいぶ涼しくなってきた。部屋の落ち着いた雰囲気もあってか、大生の気持ちも少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
先輩とは、これまで仲良く過ごしてきたからといって、いつまでも一緒にいることはできないと諦める気持ちもあった。部活動での接点がなければ、会う理由もない。先輩も受験勉強だってあるわけだし。
だから、今もこうして関係が続いているだけで、本来は充分ありがたいことだ。
(でも……、でも、先輩の唇の柔らかさを知っちゃったから……)
もう、前みたいには戻れない。頬へのキスひとつで、こんなにも嬉しいなんて。
「はあ、好き……」
先輩はまだ上がって来ない。やるなら今しかない……。
大生は、振り向いて後ろのベッドに顔を埋めると、染みついた先輩の匂いを思い切り嗅いだ。
抱きしめられたときに香った匂いの何倍も濃い先輩の匂いに、安心感と寂しさが込み上げた。
(シーツ、ひんやりして気持ちいな)
頬を冷やしたいからと言い訳し、大生は祥太郎の足音が近づくまで顔を埋めていた。
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