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キミへの気持ちは手紙にのせるから、覚悟して受け取って。
「……大生?」
「……、」
店を出る頃になっても、大生は頭が真っ白でぼんやりとしていた。
祥太郎に呼びかけられても、黙って頷くことしかできない。足取りは重く、胸も苦しい。
「大生、もしかして……、俺と離れるのが寂しい……?」
「……っ」
先輩の「離れる」というその言葉に、一気に現実感が押し寄せた。
大生はとうとう堪えきれなくなり、涙が溢れ出す。
「大生……?」
「先輩が、東京……行くって、僕、離れる、って、思っ、てなく、て……」
大生は立ち止まって、両手で顔を覆った。
顔を隠したところで誤魔化せるわけでもないし、ただの後輩がこんなに泣くなんて、先輩には引かれてしまったかもしれない。
「……大生、こっち来て」
祥太郎は泣いている大生の手を掴み、歩き出した。
大生に配慮してか、歩幅は小さく、ゆっくりと進んでくれた。
しばらくすると、人通りのない道に入り、誰も遊んでいない公園へと着いた。
公園奥には、少しボロくなった木製のベンチが置いてある。ちょうど大きな木が陰を作ってくれていた。
(ここで何をするの……?)
「大生、ここに座って」
言われるがままに座った大生を、祥太郎がやさしく抱きしめた。
次から次に溢れだしていた涙も、驚いてぴたりと止まった。
先輩には、これまでたくさんハグをされたし、今日だって図書館前でも抱きしめられた。
でも、これまでのどれとも違っている。
ふざけてしているわけでも、同情でもない。
じゃあ何かと聞かれたらうまく言語化できないけれど、これまでの触れ方とは別物に感じていた。
「大生、お前、なんでそんなに可愛いの……?」
「先輩……っ」
(どうしてそんな表情するの……)
勘違いしてしまうような先輩の表情に、大生はくらくらした。
まるで僕のことが大切でたまらないみたいだ。
少し垂れた眉も、揺れる瞳も、緩く上がった口角も、全てが優しい。
「せ、んぱ……、」
突然、強めの風が吹き、大生は思わず目を閉じた。
そこから開くまでの一瞬の間に、祥太郎は大生の唇を塞ぐ。
目を開けると、すぐ目の前に先輩の顔があった。驚いた大生は姿勢が後ろへと崩れる。それを祥太郎が抱きとめた。
(何が、起こったの……?)
心臓が騒がしい。背中を突き破って、支えてくれている先輩の手にまで伝わりそうだ。
「大生……」
パチパチと瞬きをしながら、かたまってしまった大生に、祥太郎はもう一度キスをした。
(どうして……)
頬や鼻先に触れられときとは全然違う。
大生はただ、この状況についていくだけで精一杯だった。
拒否をしない大生を見て、祥太郎は角度を変えながら何度も唇を重ねる。
「待っ……て、」
「無理」
そう言って、もう一度キスをした。大生が先輩のシャツの胸元を掴む。
風が吹く度に、お互いの髪が揺れ、頬を撫でた。
「大生」
「……先輩、なんで?」
段々と荒くなっていく呼吸のせいで、おかしくなりそうだ。
先輩もどこか余裕がなさそうに見える。
「……何でだろうね」
大生は、はっきりと言わない先輩の首に腕を回し、視線を絡めた。
「言わないのズルいです……」
(これだけしておいて、言ってくれないの。だったら僕も、何も言えないままだ……)
「ズルいと、嫌だ?」
祥太郎は、大生の背中から後頭部へと手を動かした。大生の髪で遊ぶように、くしゃくしゃと触れる。
それからコツンと、大生とおでこを合わせた。鼻がぶつかってくすぐったい。
(思い出だけでも……いいのかも……)
大生は、先輩の本当の気持ちが分からなくても、こうして触れて、それを思い出にしておくのも良い気がしてきた。
どうせ離れてしまうなら、ほしい言葉をもらえないのなら、知らないままのほうがいい。
そうしたら、実は先輩も僕のことが好きだったのかもと、幸せな思い出として残せそうな気がした。
(それならもっと……)
「嫌じゃないけど……、でも……」
「でも?」
大生は先輩と合わせていた視線を落とし、唇を見つめると覚悟を決めた。
先輩の首へと腕を回し、自ら距離を縮める。
「……僕だって、」
大生はぎゅうっと目を瞑ったまま、先輩の唇に自分のを押し当てた。
「……っ」
散々したくせに、祥太郎は大生からされると思っていなかったようで、大きく目を開いた。
頬も少しだけ赤い気がする。
(先輩も、こんな表情するんだ)
さっきまで余裕そうに見えていたけれど、勘違いだったみたい。
「もっと、してください……」
「ああもう、本当、……煽んなって」
「んっ……」
外なのに、こんなことを言うなんて。普段の自分からは考えられない。
人の気配はない公園で、しばらくの間、何度も唇を重ね合った。
(こうして触れてもらえるのは、最初で最後かも……)
誰かに見られたらどうしようとか、汗の匂いだとか、そういうことはもう、どうでもよくなっていた。
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