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大好きなあなたへ。どうしたらこの気持ちを受け取ってくれますか。
翌日、響の気まずさに関係なく、当たり前のように数学の授業が始まった。
どんな顔をしてあっちゃんを見つめればいいのか。響はおそるおそる顔を上げて黒板と黒崎を交互に見ていたが、黒崎は一度も響を視界に入れることはなかった。
今日は当てられるかもしれないと構える必要もないくらい、響に対してだけ「無」だった。
「今日さ、黒崎全然こっち見ないのな? 当てられる心配がなくてラッキーじゃん」
何も知らない大真が響に嬉しそうに話しかける。それにもまともな反応をする余裕はない。
「響、体調悪い?」
「……いや、まあ……うん」
「保健室、行きたいときは言えよ?」
「……ありがと」
響は数学の授業を何よりも楽しみにしていたのに、つらいだけのものになってしまった。今日は板書すらしなかった。
(もう頑張る意味がない。壊したのは俺だし、自業自得なのに……)
わざとらしいくらいに、自分に視線を向けない黒崎を見ているうちに、響の視界が涙で揺れた。
さっと手の甲で拭い、隣の大真に気づかれないよう、机にうつ伏せた。
「先生……!」
授業が終わると、響は震えを誤魔化すように手を握りしめながら、黒崎を追いかけた。
黒崎は複数の女子に囲まれていて、響の声に気づかないようだった。
少し離れたところから女子と黒崎を見つめる。
「先生、目が腫れてない? 泣いたあ? まさか失恋したの?」
笑いながらそう聞く女子らに、黒崎は「失恋ではないけど、悲しいことはあったかな」と答えた。
(俺が、悲しませたんだ……)
生徒の前で泣いたことを否定しない黒崎に、響は自分がやってしまったことの重さを実感した。
罪悪感という言葉では表現しきれない何かに押し潰されそう。後悔したところで、あっちゃんとの関係は戻らない。
「先生、どんまいじゃん」
「ウチらが話聞くよ」
「先生にも今度手紙を書いてあげるね。だから元気だしなよ」
女子たちは、黒崎を励ますように背中をぽんぽんと叩いた。それから「じゃあねー」と教室へと戻って行った。
他にもちらほら廊下に出ている生徒がいる中、黒崎は響に気がついた。顔をこわばらせ、何も言わずに背中を向ける。
「先生!」
(もう、あっちゃんとは呼ばない。呼べない)
響は小走りで黒崎に追いつくと、「廊下は走らないように」と淡々と注意された。
「先生、ごめん。本当にごめん」
「その話、ここでしないでもらえるかな」
「でもこうでもしないと話せないだろ」
「そもそも、俺が君と話したいと思う?」
響、と呼んでくれていた優しい声色は、聞いたことがないくらいの冷たさに変わっていた。名字ですらなく、「君」と呼ばれたこともたまらなく悲しい。
それでも、震えるあっちゃんを見ていると、自分には悲しむ資格さえないように思えた。
「俺のこと、怖い……?」
(嫌いになった? って聞く勇気はない……)
「……うん」
「そっか、そうだよね。……勝手なことして、怖がらせてごめんなさい」
頭を下げた響に、黒崎はそれ以上何も言うことはなく、背を向けて歩いて行った。
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