49 / 80
拝啓、愛しのキミヘ。そろそろ正直になりませんか。
慌てて拭こうとした大真の手を軽く払い、慧司は指先でソースを拭った。大真がティッシュの箱に手を伸ばす前に、そのままペロリと舐める。
「えっ、」
「何?」
「だって、舐め……」
「拭くのダルいからな。それともあれか? 指で取るんじゃなくて、直接舐めてほしかった?」
「はあ!?」
それはつまりーー。
直接舐めてほしかった? の言葉に、大真は頬を赤らめた。頭の中でその映像が浮かんでしまい、妙に生々しい。
(冗談なのは分かってるけど、でも……じゃあどうしてそんな顔……)
舐めとる、イコール、キス。バカでも分かることだ。
さすがの慧司だってそんなことをするはずがない。
それなのに、冗談で済ませる気がないような、なぜだか真剣に見える慧司の表情に、大真は思わず口元を隠した。
慧司は意地悪い笑みを浮かべながら身を乗り出す。
食器同士がぶつかり、カチャッと音を立てた。慧司の箸が床に落ちる。咄嗟に拾おうとした大真の手を、慧司が掴んだ。
「大真、焦って可愛い。バカじゃん」
「バカって言うなよ。お前がバカだろ」
「言ったな?」
大真の煽りとも言えない反応にスイッチが入ったのか、慧司はさらに身を乗り出した。大真の部屋着の襟を掴むと、自分のほうにグッと引き寄せた。
「えっ、」
「黙っとけ」
大真が思わず口元から手を離してしまったその隙に、慧司は顔を近づけた。
動揺した大真が、慧司の胸を押したがびくりともしない。
(待っ……、んだよ、これ)
大真が、唇の端に柔らかな感触に気づいたとき、目の前にニヤリと笑う慧司の顔があった。
(端だったけど、でもこれも、キスじゃん……!)
「けい、し……っ、おま、えなあ!」
「なあに」
「だからその顔、やめろよ……! もう無理!」
わざとやっているのか、口角を上げたままの慧司が熱っぽい視線を大真に送る。
こういう触れ合いを期待してルームシェアを始めたわけではないから、思わぬ出来事にパニックになる。
けれど、慧司からすれば些細なおふざけでしかないし、だからこうして笑っていられるんだろう。
(俺は、好きだから……お前と違って意識してしまうのに……)
眉根を寄せた大真の頬に、慧司が手を添えた。
「嫌だった?」
「……嫌、だった」
「ちゃんと唇にしなかったから?」
「……なわけないだろ。馬鹿、じゃねえの」
せっかく楽しく食事をしているのに台無しにされた気持ちだ。大真は席を立つと、自分の部屋へと入った。
けれど自室のドアは鍵付きではないし、取っ手もない。横にスライドするタイプの扉は、あっさりと慧司の侵入を許した。
ともだちにシェアしよう!

