58 / 80

拝啓、愛しのキミヘ。そろそろ正直になりませんか。

 棗の言いたいことが慧司には伝わったようで、慧司の視線が和らいだ。慧司は、ははっと笑うと、肘をついて少しだけ身を乗り出した。 「でも始めたのは大真なんだけどね」 「へえ、そうなんだ」 「進まないから連れて来た。棗さん? だったよね。不快にさせたならごめんね。大真との連絡先交換、どうぞ」 (全部意味分からんけど、連絡先交換に何でお前の許可がいるんだよ)  変わらず繋がれたままの手にも戸惑いながら慧司を見ると、何とも言えない表情で大真を見ていた。   (毎回言われる、始めたのは俺と言う言葉。いったい何のことだ?) 「うーん、やりとりをしたいわけでもないし、記念程度だったから交換はいいや。大真くん、またどこかで会ったらよろしくね」  棗は立ち上がると、帰ると言っていた別の女子を呼び、大真にひらひらと手を振った。    二人だけで納得したように会話が終わる。大真だけが、その意味を何一つ理解できなかった。 (どこから聞いたらいいのかも分からん。さっきから何なの)  混乱する大真に、「俺らも帰るか」と慧司が声をかけた。 「帰るかって、帰るしかないんだろ」  慧司は、大真の手を握ったまま立ち上がった。 「あっ……」  繋いだままの手を誰かに見られるかも。大真の声に棗が振り返る。大真の目元から視線を下にずらすと、棗はくすりと笑った。 「慧司、見られたって……!」 「棗さんなら別にいいだろ」 「はあ?」    離してほしいと振り払ってみたが、思いのほか強く握られていた。  せめて他の人には見られないようにと、大真は自分と慧司の身体で隠れる位置に手を動かした。 「残りも楽しんでね」 「じゃあな」 「慧司くん、連絡するね」  何も言えないでかたまっている大真をよそに、みんなは挨拶を済ませた。大真は俯きながら、棗たちと店の入り口まで一緒に歩く。  さすがに途中で手は離してもらえたが、慧司が強く握っていたせいで、大真の手には、はっきりと感触が残っていた。 「バイバイ」  棗たちは、せっかくだから寄り道して帰ると言い、駅までは行かないようだった。 (てっきりみんなで駅に行くと思ったのに。二人は気まずい……)  何も言わない慧司の横を、大真も無言で駅まで歩いた。 (気まずいのに、帰る家も一緒だ)  駅の改札を通るときも、電車の中も、慧司は一度も大真を見ない。大真だけが、何か怒らせてしまったのかもしれないと、ただただ不安になっていた。

ともだちにシェアしよう!