76 / 80
再会の手紙。あなたに届きますように。
◇
毎週日曜日のアルバイトが、響は憂鬱だった。聞いていた通り、あの日以降も黒崎はけっこうな頻度で店に来ていた。
響はその時間だけ裏の仕事を中心にさせてもらい、接触することがないよう気を張っていた。
店長に頼み込めば、土曜日の勤務に戻してもらえるし、みんなからも批判なく聞き入れてもらえることも分かっている。
黒崎が三週連続で来店したあたりで、響は本格的にそうお願いしようか悩んでいた。
(でも、俺はあっちゃんを避けたいわけじゃない。あっちゃん次第というか……)
目の前に立ち、久しぶりと声をかける勇気はないが、いつかは話したいと思っている。その日が来るまでは、店の迷惑にならない範囲で甘えさせてもらうことにした。
「響くんって、誰とでも仲良くしているイメージなのに、話せなくなるくらいの人もいるんだ。珍しいね」
食器を洗っている響に、社員である先輩の尚臣 が話しかけて来た。
彼はモデルのような見た目で、尚臣目当てで女性が来ることもあるくらいの人気ぶりだ。けれど、性格は気さくで、響も仲良くしてもらっていた。
「あの人、かっこいいね。大学生ではないんだよね?」
「あの人は29歳で……」
「へえ! 俺とあまり変わらないけど、響くんからしたらけっこう上だね。何繋がり?」
「……幼馴染です」
「え!?」
自分の声に驚いた尚臣が、慌てて口元を押さえた。眉を大きく上げ、目も見開いている。
「幼馴染なのに、どうして……? あ、これ聞いちゃダメなやつかな」
「……まあ、詳しくは言えないんですけど、俺が傷つけたっきり、まともに会話しないまま2年くらい経ちました」
「……ほえ」
尚臣は一人で何かぶつぶつ言いながら、頭を抱えた。
響はふと、祥太郎と大真を思い出した。関係ないのに、自分のことを心配して色々考えてくれる人がここにもいた。
「何か、すみません……」
「いや……、うん、あのさ、お節介かもしれないんだけど、言ってもいい?」
アドバイスでもくれるのだろうか。
尚臣は「う〜ん」と唸りながら、腕を組んだ。
他人が考えた解決策を一方的に押し付けられるのは嫌だが、響にとって尚臣がそんなことをするイメージはない。きっと、自分のために考えてくれているはずだ。
響が頷くと、尚臣はゆっくりと口を開いた。
「響くんはさ、仲直りしたいの?」
「そりゃあ、できれば……」
仲直り、とは違うかもしれない。けれど、偶然会っても無視はされないような、そんな関係になりたい。
この気持ちが報われなくても、今度は誠実に気持ちを伝えて、その上できちんと返事をもらいたい。
「そもそも、あの幼馴染さんは、響くんの大学が近いって知らないの?」
「知ってたと思ってたんですけど、実際ここにいるのを見ると、俺の大学が近いとか意識してないのかもしれません」
響と同じ疑問を持つ尚臣さんに対して、「やっぱりそうですよね」という気持ちが湧く。
知っていたら来ないはずだ。
「……そうかあ。そういうパターン? あー……うん、……うん? いやでも」
尚臣は眉間に濃い皺を作り、しばらく考え込んだ後、響のとの距離を詰めて来た。
小声で話そうが、普通の声で話そうが周囲の人に聞かれる位置ではないのに、気を遣ってくれたのかもしれない。
「あの人さ、頻繁に来るけど、別にこの店で何かしているわけでもないんだよね」
「何かって……?」
「ほら、俺は日曜に来ることが多いから、あの人を見かけることもわりとあったけど、他の人みたいにパソコンで作業しているわけでもないんだよ。必ず窓側に座って、ぼーっと外を見てるだけ」
「へえ……、そうなんですね」
(外を見ているから何なのか? それがどう関係してるんだ?)
尚臣さんの意図が分からず、響は首を傾げる。
「うん。だからさ、へえじゃなくて。そこが大事なんだけど。もしかして、響くんのこと探してるとか、そういうパターンではない?」
「……え?」
ともだちにシェアしよう!

