73 / 80

再会の手紙。あなたに届きますように。

「先生が一人暮らしをしている家に行ったこともあったんだよ」  響は「笑い話みたいだけど」と苦笑し、一瞬視線を落とした。 「……家に行って、玄関前で何十分も迷って、それでも思い切ってインターホンを鳴らしたらさ、全然知らない人が出て来たわけ」  響はそのときのことを思い出し、指先が震えた。 「……え?」 「はは、ビビるよな?」  震えを誤魔化すように、テーブルに置いていた手を丸めた。 「でも……、でも、なんか良い人で。あまりにも落ち込んでいる俺を見て教えてくれた。その人、結構前から住み始めてたっぽくて。……先生は俺とのことがあった後、すぐに引っ越したみたいだった」 「それ、キツイな」  大真が、くしゃりと顔を歪めた。  これまで家族みたいに過ごしてきた幼馴染と、急に関係が途切れてしまうつらさに共感してくれたようだった。 「……キツかった。まあ、俺が悪いんだけどさ」 「でも響と先生の実家って、隣だったんだろ? そこで会えないのか?」 「実家に帰って来てる感じがないのと、家を引っ越していたショックで、怖くて、先生の親にも聞けなくて」  祥太郎のコップに溢れるくらい入っていた氷が、溶けて小さくなっていく。ジュースの上部分も、薄まって分離していた。  祥太郎は肩を落とし、だんだんと姿勢が丸まっていく。いつもより小さく見えた。   「卒業してから1年半? 経ったけど、今も全然会えない感じか」 「まあ。異動先の学校に会いに行くわけにも行かないし、住んでる場所も分からないし……」 「そっか……」 (二人のこんな表情、初めて見たかも)  大真は鼻を啜り、目も少し潤んでいるように見えた。祥太郎も、眉が八の字に下がっている。  響は氷が溶けてほとんど水だけになってしまったコップを、二度回した。   「ごめんな。せっかくの再会なのに、こんな暗い話になっちゃって」 「……いや、俺らが話すように言ったからさ。こっちこそごめん」  机の上で丸めていた響の手に、祥太郎が自分の手を重ねた。 「聞いてもらえて良かったかも。ひとりで抱えるのけっこうしんどかった」  大真は目をゴシゴシと拭いた。 「それでも大学は県内だからさ。どこかで偶然会えるんじゃないかって、まだ期待してる自分もいるんだ。会ったら謝りたいけど、でもやっぱりまだ大好きだから、もう一回ちゃんと、この気持ちを伝えたいと思ってる」  強がりだとしてもこれは本心だ。このまま何年も会えなくても、俺の気持ちは変わらないんだろうな。 「……そっか。応援してる。話しか聞かないけど、それでも良ければいつでも言ってな?」  そう言った祥太郎の声は、少しだけ震えていた。 「……ありがとう」  そう口にした声は、自分でも驚くほど軽かった。  この話を聞いたことが、二人にとってどんなものになったのかは分からない。  でも俺は、今日話しができて良かった。そんなふうに思えたのは、久しぶりだった。  響は二人に感謝を伝え、この後にバイトが入っているからと別れた。  

ともだちにシェアしよう!