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 優太の最推し海洋生物は、何を隠そうシャチだった。  あの黒と白の模様。笑っているような口元。海のギャングなのに愛嬌がある。  子供の頃に見たシャチショーで、一目惚れした。それ以来、優太の部屋はシャチのぬいぐるみで埋め尽くされた。水族館には年パスで通った。  そして今。  この『蒼ロイ』の世界なら、シャチを間近で見られるかもしれない。  レンは生まれて今までで一番の集中力を発揮した。  魚群たちが不自然に逃げたりしていないか。独特のあの鳴き声が聞こえないか。  集中していると、巨大なホホジロザメが急にぼんやりとして静止したように見えたのだろう。遠くでアザラシやラッコたちがレンの方をうかがって怯えている。  ──ダメだ。……かくなる上は。  レンは思いっきり浮上する。海面に勢いよく顔を出し、きょろきょろと周りを見回した。  目があったアザラシや小型クジラが飛び上がり、慌てて水面に潜り逃げていく。  獲物を見つける時などに行うスパイホップ(海面から顔を出す行為)。まさか自分がやることになるとは思わなかった。  血眼で探すが、それらしい影や背びれはない。  レンは必死で記憶を辿った。  攻略対象にシャチはいなかった。「なんでシャチいないの!? シャチこそ王道の攻略対象じゃん!」と優太はむせび泣いた記憶がある。  レンはがっくりと項垂れた。  シロナガスクジラも良い。ジンベエザメも良い。でもやっぱり、シャチが見たかった。  結局、その日は日が暮れるまで探した。  シャチだけは見つからなかった。  もうこの世界には、いないのかもしれない。    そして、その次の日。 「こんにちは、レン」  放課後、校門から出ると誰もがレンを避けていく中で声をかけてくる人物がいた。 「あ?」  反射的に睨みつけてしまうが、その男は落ち着いていた。  持ち上がった口角。それなのに、どこか底知れなさを感じる金色の目。黒と白の髪。体格の良いレンよりも、さらに大きい体躯。 「ちょっと良いかな」  金色の目が、にこりと細められる。レンはぎろりと赤い目を剣呑に細めた。 「あんだよ」  (カツアゲか……?)  前世の記憶も相まって、思わず身構える。 「大丈夫。悪いようにはしないよ」  途端に周囲がざわつく。 「オ、オルキウス様……!?」 「なんで暴れ鮫なんかに話しかけて……!?」  オルキウスはちらりと騒ぐ生徒たちを見ると、目を細めた。 「ちょっと移動しようか」  連れてこられたのは、ひと気のない校舎裏だった。  ここでカツアゲしてたな……と気まずい思いになっていると、ふと目の前に手が差し出された。 「オルキウス・ノワールヴルだ」  その言葉に、ぴくりとレンの眉が上がる。  どこかで聞き覚えがある。  記憶を辿り、すぐに思い出した。  オルキウス・ノワールヴル。生徒会本部の副会長で、学園の王子様。そして────。 「いきなりだけど、友達にならないか?」  きらきらとエフェクトがかかっていそうな、王子様スマイル。  レンは目の前の男のことを思い出して、わなわなと体が震えた。 「突然でごめんね。嫌ならことわっ────」 「いいぜ!!」  レンは食い気味で吠えた。  瞳孔が開いて、顔が興奮で赤らんでいく。  オルキウスが一瞬だけ目を丸くする。黒と白の髪が揺れた。    ────オルキウスは、シャチだ!  レンは赤い目を無邪気に輝かせた。  

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