18 / 35
9-2
「お邪魔します」
「……邪魔するぜ」
その後、レンはアクアの後ろから生徒会室の扉をくぐった。
礼儀正しく頭を下げるアクアの後ろで、レンはポケットに手を突っ込んだまま入室する。
我ながら、柄が悪い。でも、普通に入室しようとしても自然とこうなってしまう。
オルキウスと目が合った。オルキウスは目を一瞬見開いた後、アクアに視線をやってすっと目をすがめた。
「……やあ。君はカフェテリアの子だね」
オルキウスが笑顔でアクアを歓迎する。なんと握手までしようとしている。
「あ、どうも」
アクアもにこやかにその手を取った。
(お、俺だって握手したことないのに……!)
衝撃が走るが、すぐに思い出す。
(……いや、待てよ)
『関係ない。行くぞ』
そう言われて、手をつないだ。
(俺の方が上だ……!)
どうだ、オルキウスの手は意外とでかくて包容力があるだろ。そんなことを考えてじっと握手を見つめていると、低くて威圧感のある声が聞こえた。
「なぜ、鮫がここにいる」
レンを睨みつけているのはアルシオンだった。アルシオンが大股で歩いてくるので、レンは不敵に笑って待ち構える。
(なんで俺ってこうなるんだ……?)
争いは好きじゃない。
前世の記憶を思い出す前なら、むしろ好んでいた。でも、今はただただ怖い。
それなのに、挑発してるようになってしまう。
アルシオンが山のように目の前に立ち塞がる。
「……な、なんだよ……やんのか?」
優太なら一目散に逃げているところだが、レンの足は動かない。むしろ一歩前に出て好戦的に見上げてしまう。
「二人とも。落ち着いて。近いよ」
オルキウスの腕に抑えられて、ハッとする。
すっかり王子様モードのオルキウスが笑顔でレンとアルシオンを引き離す。
「まずは彼らの話を聞こうじゃないか」
「……そうだな」
オルキウスの言葉に、アルシオンはため息をつくと、しぶしぶ頷いた。
一言で場を納めてしまったオルキウスに、レンは思わず尊敬の眼差しを向けた。
「僕、生徒会に入ろうと思います」
レンはハッとした。
(生徒会に入るのは王道ルートだ)
序盤のアクアの選択肢は二つある。一つは生徒会に入ること。もう一つは入らないことだ。
生徒会に入る選択肢を選ぶと、生徒会役員とのルートに定められる。
(でも……)
今回はシャチのオルキウスもいる。それはどう影響するんだろうか。
そして、はたと気がついた。
(あれ、俺もいるじゃん)
悪役令息である自分もいる。本来なら、アクアが生徒会に入ったことで、レンの裏ルートにはいけなくなる。
しかし、なぜかここには自分がいる。
頭に『断罪回避』の文字が駆け巡る。
レンは気がついたら口を開いていた。
「俺も、生徒会入る」
そう言った瞬間、悲鳴が上がった。
「あ、暴れ鮫くんが……!? ちょちょちょ、どういうこと!? めっちゃ面白いんだけど!」
「えええ。大丈夫ですかねえ」
会計が興奮したように机をバンバン叩き、庶務はおっとりと目を見開いている。
そして、アルシオンは憎々しげにこちらを見ていた。
アクアは前髪に隠れて表情はあまり見えないが、口元が驚きの形に開いている。まさか入るとは思わなかったのか。
レンはオルキウスをちらりと見た。
オルキウスはなんとも言えない表情をしていた。
王子様スマイルが崩れて、レンと二人でいる時の『オル』の顔になっている。
レンは堂々と宣言した後で、だらだらと冷や汗をかいた。
ともだちにシェアしよう!

