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「だから、悪いって」
レンはいつものひと気のない入り江で、オルキウスに謝っていた。
オルキウスは海の方を見ながら座り、レンはそんなオルキウスの方に向かって顔の前で手を合わせている。
オルキウスは不機嫌を隠さず、口数が少ないし表情が怖い。
「仕事増やして悪かったよ」
「……そうじゃない」
オルキウスがぽつりと何か言ったが、レンにはうまく聞き取れなかった。
「え?」
首を傾げると、オルキウスがレンをじっと見下ろす。何かを確かめるかのようにその金色の目が細められた。やがて仕方なさそうにふう、と息をついて肩から力を抜いた。
「……アルシオンはお前をよく思っていないから、気をつけろ」
オルキウスが内海の方を見ながらぼそりと言った。レンは途端に口元がにやけた。
「心配してくれてんのか?」
オルキウスはレンの方を見る。
「……そうだ」
「え」
まさか素直に認められるとは思わず、レンはまばたきを繰り返した。
誰かに心配されるなんて、初めてかもしれない。
胸の奥が妙にむず痒い。
(な、なんだこれ)
途端にそわそわと落ち着きをなくす。
「それに……あの編入生……」
オルキウスのつぶやきもあまり耳に入らない。
「……おい、聞いてるのか?」
「んえ!?」
突然肩を掴まれ、びくりとした。
オルキウスの金の目に、呆けた顔をしたレンが映っている。
「……はっ。お前、耳まで真っ赤だぞ」
「……っ! う、うるせ」
ばっとオルキウスの手を払い、耳を掴む。たしかに、ちょっと熱い。
「お前って本当にわかりやすいよな」
「なっ! んなこと言ったらオルだってわかりやすいだろ!」
顔が熱いまま反論すると、返事が返ってこない。
「……?」
不思議に思ってオルキウスを見ると、目をわずかに見開いたままレンを見ていた。
「あんだよ?」
「俺が……わかりやすい?」
信じられなさそうにつぶやくオルキウスに、レンは首を傾げて頷いた。
「おう。だってお前、さっきも顔に『面倒なこと増やしやがって』って書いてあったぜ」
そう言うと、オルキウスは虚をつかれたようにゆっくりとまばたきをした。
「……初めて、言われた」
「? 初めて言ったかんな」
きょとんとして言うと、オルキウスはまじまじとレンを見つめた後、ふっとまなじりをやわらげた。
「……そうだな」
「あっ! 今なんか知んねえけどバカにしたろ!」
「してない」
「した! ぜってぇした!」
「じゃあもうそれで良い」
「おう……って、それはそれで良くねえ!」
ぎゃんぎゃんと吠えると、頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜられた。
「あ、何すんだよ!」
ぎゃー! と悲鳴をあげてオルキウスを見上げて、どきりとした。
オルキウスは、今までに見たこともないくらい甘い笑みを浮かべていた。
とっさに何も言えなくなっていると、ぐいと腕を掴まれる。
「泳ぐぞ」
「へ? あ、お、おう!」
掴まれた腕をじっと見る。
波に浸かると、ひやりとして、自分の体が熱かったことに気がついた。
目の前でオルキウスがシャチの姿に海獣化する。
その様子をレンはぼんやりと見ていた。
「おい、今日は触らないのか」
そう言われて、レンはやっと我に返った。
「きょ、今日は……いいや」
なぜかレンはシャチの姿になったオルキウスに触れず、そのままホホジロザメの姿になった。
ふと、思い出した。
(あ……そういえば)
レンはゆっくりと目を見開いた。
海獣化した姿を触ったり触らせたりする行為。
それはごく親密な仲でしかしない。
そして、海獣化した姿に触れて良いかと問うこと。
それは海獣人にとって特別な意味を持つ。
――なんで忘れてたんだろう。
「今日はやけに消極的だな」
そう言っておかしそうに口端を持ち上げるオルキウス。
レンは一気に顔が熱くなっていくのを感じた。
海獣化した相手に触って良いかと訊くこと。
それは――。
『私はあなたを愛しています』
という、愛の告白をしているのと同じことだった。
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