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第五章 Sovereign Day・第三話

図書館を出たあと、カレッジ・ホールでランチを食べながら次のカードを探すために作戦会議を始める。 「次は?」 「カレッジ?」 「勇気ですね。勇気にまつわる場所といえば……」 「……なあ」   そこでカイが「なんで俺まで連れて行くんだよ……」とあきれた顔をする。 「なんでって、単位かかってんだろ? どうせ目的地は一緒なんだから、一緒に行けばいいだろ!」 「……これ、本当はハウス対抗だろ? 分かってんのか?」 「フンッ! 私だって貴様と一緒に行動することは不本意だ」 「だったらほっとけよ」 「なんだと!」 「まあまあ、二人とも」   カイの態度が気に入らないアートが爆発する前に、僕は二人の間に入る。 「テオの言うとおり、一緒に探そうよ。ハウス対抗って言っても、別のハウス同士が行動を共にしてはいけないというルールはないよ」 「……」   そう言うと、カイはおとなしくなった。 「んで、カレッジだけどさ、勇気だから……剣術とかそういう系?」 「それならアートが得意そうだね」 「近衛騎士の家系であるヴェイン家にお任せください」   ランチも食べ終わり、カレッジ・ホールを出ると、四人で剣術クラスを実施している運動場に行く。 「あれ?」 「なにもないですね」 「なんだ? ハズレか?」   そう思って運動場を見渡す。 さっき、図書館にあったようなヒントの紙もない。 「……」 「カイは? なにか気づいたことはない?」 「さっぱり」   カイは無表情のまま肩をすくめた。 「うーん……じゃあスポーツホールとか?」 「行ってみようか」   外の運動場から、中のスポーツホールに移動する。 すると、壁にヒントの紙が貼られていて、学生達がヒントを見ようと集まっていた。 「ルシアンだ……」 「王子だ……」   コモンの学生が多く、ヒソヒソと噂話をしながら僕のことを見る。 貴族とは違って露骨な視線に、少し居心地の悪さを感じた。 「……おい」 「ん?」   カイに呼ばれて振り返ると、僕の耳元に口を寄せると「見られたくねぇなら、下がっとけ」と小さくつぶやいたら。 「っ」 「あ?」   無意識なのかもしれないけど、カイは、人に壁を作っているはずなのに時々すごく物理的に距離が近くなる。 誰彼かまわずやってるんじゃないかって、少し心配になる。 そんなことを思いながら、カイのことをジッと見つめる。 「なんだよ?」 「……なんでもないよ」   そう言って笑った僕に不可解な表情を浮かべるが、特に言及することもなく、カイはヒントの紙に視線を向けた。 「ヒントはー……またラテン語かよ」 「ルシアン殿下」 「えっと……"Fortes non semper antecedunt. Interdum saliunt."」   勇気のある者が常に先頭に立つとは限らない。 時には飛び込む者である。 「直訳するとこうだけど……」 「どういう意味?」 「……時には大胆な行動やひらめきが必要ってことじゃないのか?」   カイが指をさしている方向に視線を向けると、スポーツホール最奥にある四・五メートルの高さのクライミングウォールの一番上に封筒が貼られていることに気づく。 「……まさか」 「あの……封筒の中に……」   そういうことか。 「ひらめき関係ねーじゃん! ただの脳筋プレイじゃん!」 「命綱はないが……あの高さならギリだろう」 「下に分厚いマットも敷いてあるしね」   僕たちの話を近くで聞いていたコモンの学生達が一斉にクライミングウォールに移動していく。 僕達も下まで移動するが、下から見ると結構な高さがある。 「たっけー……」 「どうしようか」 「私が行きましょう」   アートが立候補するが、それをテオが止める。 「待て待て! 騎士が万が一、指でもケガしたらヤバいだろ! ここは俺が行くから、見てて」 「こんなことでケガなどするか!」 「はいはい、いいから」   そう言ってテオは制服の上着とベストを脱ぐと、騒いでいるアートに手渡した。 「危険だ!」 「誰がやっても危険度は変わらないだろ?」 「だから私が……!」   引き下がるアートに、テオは「勇気って……そういうことだろ?」と笑った。 テオは、滑り止め用の粉末チョークを指先につけると、ホールドをつかんで登っていく。 「へー……うまいな」 「大丈夫かな」 「あの動きなら大丈夫だろ」   カイの言うとおり、テオはわりとスムースに上まで登って封筒を取ってきた。 「はい、ゲット!」 「さすがだね」 「貴様は昔からサルのように木登りは上手かったな!」 「褒めるならちゃんと褒めて?」   テオが取ってきた封筒の中身を取り出すと、勇気の剣のマークが描かれているカードが入っていた。 そして、右上にはラテン語数字のⅡが書かれている。 「……結構簡単だな」 「ラテン語読めなきゃ詰んでるけど?」 「俺は読める」   そう言ったカイに「普通の学生はラテン語なんてそうそう読めないの!」とテオが大きな声で言う。 その言葉を拾ったのか、コモンの学生が「……やっぱズルしてんじゃねーの」「王子に好かれると楽できて羨ましいな」「どうせ顔だろ」と僕とカイを侮辱するようなつぶやきが聞こえてきた。 「は?」   そのつぶやきに反応したのはテオだった。 「今、誰が言った?」   普段のテオからは考えられないくらい低い声に、コモンの学生達が怯えているのが分かった。 「なあ、誰が言ったんだよ」 「テオ……」   僕が止めようとするのをアートが止める。 アートも、テオと同じくらいの怒りを浮かべていた。 「お前らがさ、徳目が分からないとかラテン語が分からないのは仕方ないと思うよ。受けてきた教育とか、育ってきた背景が違うんだから」   テオは「だけど、それで二人を落とすような発言すんのはお門違いだろ? 自分の努力不足を他人のせいにすんなよ」と静かに指摘した。 「……っ」 「め、恵まれた環境のお前達に言われたくないんだよ!」 「そうだ!」 「なに不自由なく与えられた物を享受してるヤツが、偉そうに!」   そう言われてしまったら、僕達はなにも言い返すことができない。 その通りすぎるから。 テオも、黙り込んでしまった。 沈黙と嫌な空気が流れるスポーツホール。 その空気を破ったのは「あのさ……」というカイの小さな声でだった。 「こいつらは、ただ与えられた物を享受してるわけじゃねぇだろ」 「……は?」   カイは一歩前に出ると「こいつらの背負ってる重さが分からねぇなら、知ったような口効くなよ」と静かな圧をかけた。 「……っ!」 「……チッ」 「庶民のくせに、貴族の味方してんじゃねーよ!」 「行こうぜ」   負け犬のようなセリフを吐き捨てて、学生達はスポーツホールを出て行った。 「……もー!」 「イッ、テ」   テオがカイに飛びつくように肩を組むと、カイは心底嫌そうな顔をした。 「なんだよ、お前ー! めっちゃいいヤツじゃん!」 「は?」 「まさかカイがこんな俺達想いだとは思わなかったなー」 「勘違いすんなよ」   カイはテオの腕から抜け出そうと、腕をつかむ。 「別に、お前達のためじゃない」 「ハッ! お前もアートみたいなツンデレ属性かよ!」 「ちょっと待て、私みたいとはなんだ」   そこにアートも参戦する。 なんだか僕だけ仲間外れみたいじゃないか。 僕が不満そうな顔をすると、それに気づいたテオがあわててカイから離れた。 「おっと……!」   カイは乱れた襟元を直すと「時間ねえから、さっさと次に行こうぜ」とスポーツホールから出ようと歩き出す。 「カイ!」   そんなカイを、テオが呼び止める。 「あ?」   振り返ったカイに、テオは「俺、お前のこと誤解してたわ」と笑った。 「はあ?」 「ありがとう!」   お礼を言ったテオに、カイは「なに訳わかんねぇこと言ってんだよ」とぶっきらぼうに返した。 「フフッ」 「……ルシアン殿下」 「ん?」 「……」   前を歩くテオとカイの後ろ姿を見ながら、アートが複雑そうな顔をしている。 なんとなく、アートの考えていることが伝わってくる。 「人間ができてるよね」 「……私は……」 「認められない?」 「……まだ」   素直に答えるアートに、僕は肯定も否定もしない。 これは、価値観の問題だと思うから。 でも、カイと一緒に過ごせば過ごすほど、彼の良さがアートにも伝わると思ってる。 「きっと、アートも気づくと思うよ」 「……」   カイの素晴らしさがね。 そういう意味を込めて笑うと、アートがさらに複雑そうな顔をした。

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