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第十章 Open the Cage

カイが言い切ったのと同じタイミングで、テロリスト達のアジトの入り口から大きな爆発音が聞こえてきた。 「な、なんだ!?」 「どうした! なにがあった!」   カイから手を放したテロリストが部屋の入り口に向かうと、ゴロツキの一人が慌てた様子で部屋に入って来た。 「お、王族の護衛達が来やした!」 「バ、バカな……! ここが見つからないようにウソの逃走ルートを流したはずだ!」 「SO14はお前らみたいにバカじゃないってことだろ」   カイがそう言って笑うと「貴様……!!」とカヴェンディッシュ卿が拳を振り上げる。 カイは、縄抜けしたロープを足元に落とすとカヴェンディッシュ卿の拳をかわし、そのまま左のストレートを顎の下を狙って打ち込んだ。 「グハッ!」   カヴェンディッシュ卿は白目を剥いて地面に倒れた。 「フゥ……」 「まだだぜ!」 「!」   その声に振り返った瞬間、テロリストの男はカイを地面に押し倒した。 男は両手でカイの首を絞める。 「お前が本物じゃねえのなら、人質にしておく価値はねえからな」 「クッ…」   カイは男の拘束から逃れようと両腕をつかんでもがくが、頭を殴られた時の出血が多く、視界がかすんで指に力が入らなかった。 「(ヤベェ……)」 「あばよ、ヒーロー気取りの偽王子」 「(ル、シアン……)」   カイが意識を手放しそうになった瞬間、扉から待ち望んでいた男の叫び声が聞こえた。 「カイ!!」 「!!」 「な!?」   カイに馬乗りになっている男を認識したルシアンは、考えるよりも先に体が動いた。 走ってきた勢いのまま、男の体に体当たりをする。 「ガッ…!」 「……ゲホッゲホッ!」 「カイ!!」   男はそのまま壁に激突して気絶した。 ルシアンはカイに駆け寄ると、やさしく肩を抱いて上体を起こす。 「イッテ……」 「カイ!」 「あー……しんど……」 「カイ……」   ルシアンは表情を歪ませながらもやさしい手つきでカイの頬をなでる。 そんなルシアンの姿を見て安心したカイは口元が緩んだ。 「お前さ、この部屋に入ってから俺の名前しか呼んでないけど」 「う、うるさい……。僕が……どれだけ心配したか……」   ルシアンは「生きてる……よね……」と震える手でカイの体を抱きしめる。 「どーみても生きてんだろ」 「生きてる……」 「……生きてるよ」   そう言うと、ルシアンを安心させるようにカイも左手を彼の背中に回した。 カイは、ルシアンの肩を借りて部屋から出る。 別室では、テロリストやゴロツキが王室警護専門部隊のSO14に制圧されていた。 「ルシアン殿下! おケガはございませんか?」   部隊長が二人に駆け寄って、ルシアンの安否を確認する。 「ああ……。部屋の中で、テロリストのボスらしき男と今回の黒幕のカヴェンディッシュ卿が意識を失っている」 「すぐに拘束します」   部隊長は「ルシアン殿下、念のため外にいる医師の診断を受けてください」と伝える。 「私は大丈夫だ。それよりカイを……」 「かしこまりました」   部隊長がルシアンの代わりにカイを支えようとするが「私が外まで連れて行く」と断った。 「し、しかし……」   ルシアンが部隊長を睨むと「分かりました……」と部隊長は引き下がる。 外に出るとセオドアとアーサーが待っていた。 「おーおー、派手にやられたな……」 「まったく……」 「うるせぇ」   セオドアは「とりあえず、簡単に手当てしてもらってこいよ」と、待機している救急車を指さす。 「……だな」 「ずいぶん素直だな」 「んー……さすがに疲れたわ」   いつもの調子で自分の嫌味に反応することができないほど憔悴しているカイを見て、アーサーは「だから危険だと言っただろう……。あれほど気をつけろと言ったにもかかわらずこんなボロボロになるまで無抵抗にやられるなんて……」とメガネを軽く上げながら早口で静かにまくしたてる。 「……」 「な、なんだ?」   そんなアーサーをなにも言わずに見ていたカイは「お前ってさ……ツンデレだよな」と苦笑する。 「な! なにをバカなことを言っている! 私はルシアン殿下が貴様のことを心配しているから! ルシアン殿下が悲しむと思ってだな!」 「あーはいはい。そうなのよ〜アートは好きな相手ほどツンツンしちゃうんだけど、愛はあるんだよね〜」 「バ、バカなことを言ってないで、早く治療を受けてこい!」   顔を赤くしながら叫ぶアーサーに、三人は「(ツンデレだな……)」と心の中で合意した。 カイとルシアンが救急車に乗り込むと、医師がカイの状態を診察する。 「……どうですか?」 「……はい」   一通り診察をすると、医師は「頭の傷は、血も止まっています。肩の傷も、幸いかすめただけなのでそこまで問題はありません。フラつきの原因は、貧血と……」と、カイの肋骨を触る。 「イッ……!」 「カイ!?」 「ここです……。肋骨が何本か折れています。よほど強い負荷がかかったようです……」 カイは「やっぱりな……」と納得する。 「……肋骨ということは、安静にしておく以外できないですよね」 「そうですね。ですが、どのケガも命に別状はないので、安心してください」 「……分かりました」   医師の言葉を聞いて、ルシアンは安堵のため息をつく。 「心配しすぎだろ」 「……当たり前だろ」   真剣な眼差しで、いつもよりも低い声でハッキリと言い切ったルシアンに、カイは胸が苦しくなった。 カイは、隣に座るルシアンの肩に頭を乗せる。 「……カイ?」 「……少し寝る」 「……ああ、おやすみ」   ルシアンは、カイの血で汚れたピアスを愛おしそうな手つきでなでた。  ◆ ブラックウェル宮殿にある王室診察所、ロイヤル・ミューズ・クリニックに着いた二人。 カイは治療を受けたあと、輸血のためベッドに寝ていた。 ベッドの横にはルシアンが座り、カイの頭や腕に巻かれた包帯を、後悔の混じった瞳で見つめていた。 そんなルシアンの視線を無視して、カイは「なんで俺の居場所が分かったんだ?」と聞く。 「それは簡単だよ」 「やっぱGPSか?」   ルシアンはうなずいた。 「そのピアス、王室専用のGPS機能が搭載された特注品なんだ」 「……はあ? 王族ってそこまでするのかよ……こっわ……」   カイは驚いた顔をするが「……でも、まあそうか」と納得した。 「昔の誘拐未遂事件のあと、兄経由で作ってもらったんだ。それで今回、兄が位置情報の開示を許可してくれた」 「なるほどな……」   ルシアンは「まあ、結局、王族警護専門部隊にも助けてもらったけどね」と続けた。 「兄貴に感謝だな」 「本当に」   そう言って笑うルシアンの顔を見て、カイは視線を逸らした。 「ん?」 「……」 「どこか痛む?」 「いや……」   カイは、なにも言わずにそのまま目をつぶった。 輸血が終わると「今日はこのままここで休んだら?」とルシアンが提案する。 「こんなとこじゃ、落ち着かねえよ。寮に戻る」 「それなら僕の個室においでよ」 「なんで?」   時刻はもうすぐ夜の十時。 アカデミーの門限を過ぎていた。 「それに、君は二人部屋だろ? ルームメイトにも心配をかけるんじゃないか?」 「……」   ルシアンにそう言われたカイは、肯定も否定もしなかった。 外で待機していたセバスチャンが「ルシアン殿下、メインホールで皆様がお待ちです。ハウスに戻られる前に、お顔を出されたほうが良いかと」と伝える。 「……それもそうだな」   ホールの中に入ると、先に戻っていたセオドア、アーサー、エレノア、そして真琴が待っていた。 「ルーク! カイ!」   ホールの中をウロウロしていたセオドアが二人に駆け寄る。 「カイ、大丈夫か? あのあとぶっ倒れたって聞いて心配したぜ」 「ぶっ倒れてなんかいねえよ……」   カイは苦笑しながら答えた。 ルシアンは「幸い、狙撃は肩をかすめただけ。肋骨が折れているみたいだけど……」とカイの状態を伝えた。 「うわー……首の痕が痛々しいな……」   テロリストの男に絞められたことで残った首のアザを見て、セオドアがカイを心配する。 腕を組んで入り口付近で待機していたアーサーが「プロのテロリスト相手に、その程度のケガで済んだことが奇跡だな……」と言葉選びは普段と変わりはないが、いつもの棘はなかった。 「お、お兄様……カイ……」   ホールの真ん中で、顔面蒼白で両目いっぱいに涙を溜めているエレノアを見て、二人は申し訳なさそうな顔した。 エレノアのもとへ行くと、カイは目線を合わせるためにしゃがむ。 「イ、テテテテ……」 「カイ!?」 「あー、大丈夫です……」   痛む肋骨をおさえながら、カイはエレノアと向き合った。 「あ、あなたがお兄様の身代わりとは知らず……わ、私が……あのとき余計なことを……」   大聖堂の前での出来事を思い出しながら、エレノアは「も、申し訳ございませんでした……」とカイに謝罪する。 カイは、そんなエレノアを安心させるように頭に手を置いた。 「あれは、俺の油断が招いた結果です。王女様は、なにも悪くありませんよ」 「で、ですが……! その油断を招く原因になったのは……!」   カイはエレノアの頭をやさしくなでながら「……あなたにケガがなくてよかったです」と続けた。 「――っ!」   その言葉に、エレノアの両目からは涙がこぼれ落ちた。 「……エリー、護ってもらった時はなんて言うんだっけ?」 「……護ってくださり、あ、ありがとうございました」 「当然のことをしたまでですよ、マイ・レディ」   そう言ってウィンクをするカイの姿に、エレノアの涙が引っ込んだ。 ゆっくりと立ち上がったカイは、今度は真琴のことを見る。 「約束通り、任務遂行だ」   含みのある笑顔で告げるカイに、真琴は思わず拳を強く握りしめる。 「これで証明できただろ。あんたの教育は間違ってなかったってな」 「……」 「……」   真琴から目線を逸らさずに、彼の言葉を待つ。 どんな嫌味が出てくるのか、そう思ったカイだったが、真琴の口から出てきたのは想像していたものとは違った。 「私が……教育をしていたのは、自分の身を護る術を授けたかったからだ……」   カイは、その一言で真琴の真意に気づいた。 CIAという立場上、なにかの事件に巻き込まれる可能性は低くはない。 その時に、自分で自分を護るための術をカイに教えることが、真琴の父親としての愛情の伝え方だった。 「(……気づけるかよ不器用親父……)」 「それなのにお前は……本当に……」   真琴の表情は、安堵と後悔が入り混じっていた。 「……だけど、後悔はしてない」   その言葉に、真琴は苦笑した。 ルシアンの身代わりになると宣言したあの日、言えなかった言葉。 「……お前は、本当に……驚くほど私の父さんに似ているな」   真琴は、カイに父親の姿を重ねた。 そんな二人のやり取りを横で聞いていたルシアン。 「君だって、周りの人にちゃんと愛されてるじゃないか」   カイは小さな声で「……うるせえな」と嬉しさと戸惑いを隠すように答えた。

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