22 / 23

第十二章 愛の証明*

もう一度ドアノブに手をかけたカイの手に重なったのは、カイよりも少しだけ大きく、それでいて細くて美しいルシアンの手だった。 「……なんだよ?」   ルシアンは、後ろからカイの体を抱きしめると「……行かせたくない」とカイの首に顔をうずめる。 「なに甘えたこと言ってんだ……」 「あんな顔で、僕の名前を呼ぶなんて……」 「どんな顔だよ」   カイは呆れた顔をすると、後ろ手でルシアンの頭を乱暴に掻きまわす。 ルシアンはうずめていた顔を上げて、カイの耳元に唇を寄せた。 「……カイ」 「……ッ」   ――これ以上はマズい。   カイの防衛本能が警鐘を鳴らし、ルシアンから距離を取ろうとするが、ルシアンの体の熱と肋骨の痛みが邪魔をする。 「ちょ、お前いい加減に……」   カイが顔を後ろに向けると、熱を帯びたロイヤルブルーの瞳が真っすぐに見つめていた。 「ッ」 「……」   そんな熱い視線から逃れようとするカイの腰を、ルシアンはやさしく、それでいて確実に逃がさないよう両腕で捕らえる。 「もう、逃げないで……」 「ル、……」 「僕の前からいなくならないで……」   ルシアンはカイの頬に右手を添えると、そのままカイの唇に自分の唇を重ねた。 重ねた唇から、ルシアンの想いが伝わってくるような錯覚を覚えたカイは、そのまま彼の唇を受け入れる。 触れては離れていくやさしい口づけを繰り返したあと、二人の重なりは徐々に深くなっていく。 「……んっ」   カイの口からかすかに甘い吐息が漏れ、ルシアンの舌がカイの唇のすき間を割って入り込む。 「ん……っ」   ルシアンの舌はカイの口内を味わうようにゆっくりと動く。 そんなルシアンの舌に、カイも応えるように自分の舌を絡ませる。 何度も深く重ね合ったあと、息継ぎの限界を迎えたカイがルシアンの胸元を軽く叩くと、ルシアンは名残惜しそうに唇を離した。 「……カイ」 「お、俺を殺す気か……」 「鼻で息するんだよ?」 「分かってるっつーの!」   ルシアンは「ねえ、カイ……」と名前を呼ぶ。 「あ?」 「……約束、守ってくれてありがとう」   そう言うと、ルシアンはカイの耳元でやさしく光っているロイヤルブルーのピアスに触れた。 「忘れてた」   カイは耳元に付いているピアスを「これ、返すわ」と言って外そうとする。 「いいよ」 「はあ?」   そんなカイの動作を制止するルシアン。 「これは、もうお前のものだよ」 「なに言ってんだよ」 「これを付けていれば、どこにいたって捜し出せるだろう」 「……勘弁してくれよ」   重たい愛に戸惑いながらも笑うカイ。 ルシアンは「それに、僕のものを君が付けているって、僕の所有物のような気がしないかい?」と、どこか恍惚とした表情を浮かべた。 「……別に、こんなもん……」 「え?」 「……」   カイはピアスを触りながら「……んなもん付けてなくても、お前のもんだって証明しろよ」とルシアンを挑発する。 ルシアンは一瞬あっけにとられるが、ニッコリと笑うと「もちろん……そのつもりだよ」と答えた。 ルシアンはカイを抱き上げると、ベッドルームへ向かった。 真っ白いシーツの上にカイを降ろすと、黒いシャツとのコントラストがよく映える。 ルシアンはカイの着ているシャツのボタンに手を伸ばすと、細長い指でひとつずつ外していく。 全てを外し終わると、華奢だがほどよい筋肉がついて引き締まった美しい体に、真っ白い包帯が痛々しく巻かれた素肌があらわになる。 ルシアンはやさしく包帯に触れると「……僕のせいで……」と眉毛を下げる。 「いつまで気にしてんだよ」 「……そりゃあね……。でも……」 「あ?」   ルシアンは肋骨が痛まないように注意しながら、カイの両腕を持ってシーツの上に押し倒す。 そして、右肩に巻かれている包帯に唇を寄せた。 「君が……ここにいるって、実感すると……」   カイを見下ろすように見つめながら「……ダメだね……止められない……」 「……お前、見かけによらずサディストだな」 「失礼だな。君に対しては愛しかないよ」   そう言うと、ルシアンはそれ以上の言葉は必要ないとでも言うように、カイの唇を自分の唇でふさいだ。 角度を変えながら、何度も深くカイの唇を逃さないように舌を絡める。 「ふっ……ん……」   時折、カイの口から漏れる甘い吐息さえも逃さないと、噛みつくような、それでいてやさしい口づけを繰り返していく。 「カイ……」   ルシアンの手が、露わになったカイの胸をゆっくりと這っていく。 「ッ……! お、前も……脱げよ!」 「……うん」   体を起こすと、ルシアンは自分のシャツのボタンを外していく。 そんなルシアンの姿をジッと見つめるカイの視線に気づき「どうしたの?」と聞く。 「……いや」   シャツを脱ぎ捨てたルシアンがカイの上に覆い被さるようにして視線を合わせると「ん?」と続きを促した。 カイはゆっくりルシアンの鎖骨に手を伸ばすと、薄く残っている傷痕に触れた。 「……気になる?」 「別に……」 「完璧だって言われてた第二王子の体に、こんな傷痕が残っててガッカリした?」   ルシアンが少し寂しそうな顔で笑うと、カイはムッとして両腕をルシアンの首に回す。 「わっ!」   バランスを崩したルシアンは、カイを潰さないように慌ててシーツに両手をついた。 「いきなり危ないよ」 「……」   カイはルシアンの傷痕に口づけをすると「……男の勲章、だろ」とやさしい声色で伝えた。 「……ふふっ」   ルシアンは目を細めて笑うと「それじゃあ……」と言いながらカイの首筋にやさしく歯を立てる。 「イッ……!」 「この……首の痕も?」 「……バカ言ってんじゃねえよ」   カイはルシアンの頬を引っ張ると、ルシアンの唇に軽く触れた。 「ずいぶん可愛らしいことするね」 「うるせえな!」   ルシアンはもう一度やさしくカイを押し倒すと「大丈夫……全部僕に任せて」と、カイのズボンのベルトに手をかける。 手慣れた様子で衣服を剥ぎ取っていくルシアンに「さすが、王子様だな」とカイが皮肉を言う。 「……」   ルシアンは無言でカイの手をつかむと、自分の胸に押し当てた。 ルシアンの心臓は、ウィンター・ボールで感じた緊張感とは比べ物にならないくらい激しく高鳴っている。 そんなルシアンに、カイは驚いて目を見開いた。 「……緊張しないわけないだろ……は、初めてだし……」 「……悪い」   ルシアンはカイの手にチュッとリップ音を立てて口づけをすると「だから、うまくできなくても笑わないでよ……」と恥ずかしそうに伝える。 カイはなにも言わず、返事の代わりにルシアンの手に口づけを返した。   ルシアンはズボンのベルトを外し、ズボンと一緒にベッドの下へと脱ぎ捨てた。 「痛かったら言って……」 「鍛えてっから心配すんな」 「それって関係あるの?」   カイの唇をついばむように味わいながら、カイの引き締まった太ももに手を滑らせると、カイは恥ずかしさを隠すように横を向く。 「ダメだよ……カイ……ちゃんと僕を見て」 「おま、え……っ」   ルシアンの細くて長い指が、少しずつカイの奥を暴いていく。 「っ……あ、」 「痛い?」 「……い、たくねえから……早くしろ……っ!」   ルシアンはカイの両足を割って入ると、足のラインを確かめるように唇を這わせていく。 「ん、……っ」   知らない感覚に思わず下唇を噛み締めるカイに、ルシアンは「そんなに噛んだら唇切るよ……」と苦笑する。 「ねえ……声、聞かせて……。僕の名前を呼んでよ……」 「……っ、ルーッ……」 「カイ……カイ……」   愛おしそうにカイを見つめながら、ルシアンはカイのやわらかくなった入り口に、自身の熱を滑り込ませていく。 「……っ、あ!」 「カイッ……」 「ル、シアン……っ」   カイの中は驚くほど熱く、二人の熱が混じり合っていく。 ルシアンは、自分の熱をカイの奥まで押し込むと、大きく息を吐いた。 初めての質量に戸惑うカイは、目をつぶってシーツをギュッと握りしめる。 「カイ……そっちじゃないよ」   ルシアンは力を入れて白くなったカイの手をやさしく解くと、自分の背中に回した。 「ッ……傷つける……っ」 「いいから……お前の爪痕だって、僕にもつけてよ……」   そう言って笑ったルシアンに「……ッバーカ!」と笑って返す。 ルシアンがカイの存在を確かめるようにゆっくりと動くと、カイの耳元でロイヤルブルーのピアスが揺れる。 「あ……っ、ん……! あ、ル、ー!」 「ッ……カイ……」   折れた肋骨になるべく負荷がかからないように、ルシアンがゆっくり浅く動いていると「……っ! お、い!」と、カイが声を上げる。 「……っん?」 「……もっ、と! ちゃんとよこせよ!」   その言葉を合図に、ルシアンは自身の熱をさらに沈み込ませた。 「あ、……!」 「煽った、責任……取ってよ、ね!」 「っ、あ!」   ルシアンは、逃がさないようにカイの細い腰をがっしりとつかむと、容赦なく何度もカイの最奥を突き上げる。 「ひ、あ……っ、く……!」   先ほどよりも激しい質量に、カイは思わずルシアンの背中に爪を立てた。 「ッ……」 「まっ……、あ、待て、ッ」 「ハッ、カイ……ッ!」   ルシアンは、カイの背中に腕を回すとやさしく抱きしめる。 「カイ……」 「っあ、ル……ー!」 「カイ……愛してるよ」   そんなルシアンの愛の囁きは、カイの耳には届いていなかった。 ただ、ルシアンから与えられる愛の重さを、体中で感じていた。 ◆   翌朝。 カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ましたルシアン。 自分の横で無防備に寝ているカイの寝顔をやさしい眼差しで見つめたあと、カイを起こさないように静かにベッドから降りる。 落ちているシャツを拾って羽織ると、背中に痛みを感じた。 鏡で背中を確認すると、そこには赤い引っ掻き傷が残っていた。 「フッ……」   昨日の出来事は夢ではなかったという爪痕を、ルシアンは愛おしそうに見つめる。 「……ん」 「おはよう」   目を覚ましたカイは「……おう」と返事をするが、布団の中に顔を隠す。 「どうしたの?」 「……なんでもねえよ」 「ふふ、昨日はあんなに素直だったのにね」 「……うるせぇ。朝からよく喋るなバカ王子」   布団の中からこれでもかと毒づくカイの態度に、ルシアンはこれ以上ないくらいのやさしい顔で微笑んだ。

ともだちにシェアしよう!