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第3話 俺?
「いやいや、え? 俺? 三鷹が? ……はぁ?」
我ながら酷い動揺っぷりである。
だがこんなの動揺するなという方が無理な話だ。
(あの三鷹が、俺のことを好き……?)
あいつと出会って8年ほど経つが、当然ながらそんなこと考えたこともなかった。
その間こちらはずっとメラメラと対抗心を燃やしていたのだから。
そんな俺をよそに鳶田はひとり納得したようにうんうんと頷いている。
「これであいつが彼女作らない理由が判明したな。三鷹は雀野にぞっこんラブだったわけだ」
「その言い方やめろ! まだ決まったわけじゃ……」
……いや。でも、待てよ。
三鷹の好きな子を突き止めて奪ってやるつもりだったが、もし本当に三鷹が俺のことを好きだったとしたら。
(手っ取り早くあいつに大ダメージを与えられるのでは?)
「ふ、ふふ……」
「あ、お前またエグいこと考えてるな」
勢い良くベンチから立ち上がり、俺は天に向かって宣言した。
「待ってろよ三鷹ァ……俺がこっぴどくお前を振ってやるからなー!」
そしてまた友人の長い溜息が聞こえたのだった。
***
しかし、そう宣言しつつもこれだけの情報ではまだ判断材料に欠ける。
これで勘違いだったらただの自意識過剰野郎になってしまう。
あいつが本当に俺のことを好きだという決定的な証拠がもっと欲しい。
そこで、俺はとりあえず三鷹を観察してみることにした。
これまで己の精神衛生上、出来る限りあいつを見ないように生活してきたからな。
――お陰で、わかったことがある。
あいつとやたら目が合うのだ。
朝、登校し教室に入ったときも。授業中でも。移動教室で廊下を歩いているときもだ。
その度にあいつはにっこりと笑いかけてくるのだが、それが一日に何度も続けば流石の俺でも気付く。
(あいつ、俺のことめっちゃ見てんじゃん!?)
俺が気付かなかっただけで、これまでずっと三鷹は俺のことをこんなふうに見ていたのだろうか。
だとしたら。
これはもう確定なのでは……?
「あいつガチで俺に惚れてるっぽいぞ、鳶田!」
「へぇ~」
「へぇ~ってなんだその薄い反応は。お前の予想が当たったんだぞ!」
すると鳶田はいつものベンチで菓子パンを口にしながらぼそぼそと呟いた。
「いや、なんか知らなくてもいいこと知っちまったみたいな……今更だが三鷹への罪悪感がすごい」
「なんだよそれ」
「お前は嬉しそうだな? そんなテンション高いお前を見るの初めてな気がするんだけど」
「そりゃそうだろ!」
「なんでだよ。嫌いな奴に惚れられて、普通は嫌なもんじゃねーの?」
「ばっか良く聞け鳶田」
「あ?」
鳶田の肩を掴みながら俺は言う。
「昔から言うだろ? 『惚れた方が負け』と」
「はぁ」
「あいつは俺に惚れている。ってことは、だ。あいつは俺に負けてるってことだ。そして、俺はあいつに勝ってるってことだ!」
あぁ、なんて良い気分だろう。
苦節8年、初めて俺はあいつに勝てたのだ……!
「で? これからどうすんだ?」
「え?」
鳶田が半眼で俺を見ていた。
「この間、こっぴどく振ってやるとか言ってただろ、お前」
「あぁ。そのつもりだ」
俺はしっかりと頷く。
これまでの恨みを手っ取り早く晴らす絶好のチャンスなのだから。
「でもよ、これまでずーっとあいつはその気持ちを隠してきたわけだろ? だったら、これからもずーっと隠し通すつもりなのかも」
「え……?」
俺は目を瞬く。
「コクられたんなら振れるけどよ、コクられてもいないのに振れないだろ? 向こうは既にお前に嫌われてるってわかってるわけだし」
……確かにそうだ。
いつから俺に惚れているのかわからないが、これまでずっとあいつは俺にその想いを告げずに来たのだ。
このまま告げないままの可能性は十分にある。
「そんなのダメだろ!」
「ダメって言ってもなぁ。だから、これからどうすんだって」
どうする……?
あいつをこっぴどく振るには、まずあちらに「好きです」と告げてもらわなくてはならない。
なら、答えは簡単だ。
「……コクらせる」
「は?」
「あいつに俺が好きだとコクらせる!」
ぐっと拳を握り俺は宣言した。
「――で、コクらせるってどうすりゃいいんだ?」
今日も己に課している勉強ノルマを熟し、あとは寝るだけという時間。
自室のベッドに仰向けになって俺は呟いた。
初恋に破れてから色恋沙汰からは目を背けてきた。
故に向こうからコクらせる方法なんてさっぱりわからない。
仕方なくスマホを手に取り「相手から告らせる方法」と検索してみる。すると。
『好きな人から告白してもらうには?』
そんなタイトルが目に飛び込んできて思わず「いやいやいや」と声が出てしまっていた。
(好きな人じゃねーし。好きなのはあっちの方だし)
そう心の中でツッコミを入れつつもその内容を読んでみる。
要約するとこうだ。
・相手を褒める。
・二人きりの時間をつくる。
・告白しやすい雰囲気作り。
・上目遣いで「今日は帰りたくないな♡」
「これじゃあ俺があいつのこと好きみたいじゃねーか!」
危うくスマホをぶん投げるところだった。
結局、俺はそのままスマホを充電器に繋ぎ眠ることにした。
朝勉強のため明日も早く起きなければならない。
しかし目を瞑るとあのイケメンスマイルが瞼の裏に浮かんできて、俺は嫌な気分になりながらも心の内で呟いた。
(……まぁ、褒めるくらいならしてやるか)
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