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第4話 絶対告らせる

 それから俺は再び三鷹の観察を開始した。  あいつの褒めるべきところを見定めるためだ。……しかし。 (頭が良い。俺よりも) (運動神経が良い。俺よりも) (人当たりが良くて人気者。俺よりも……っ)  見れば見るほど『ムカツク』という感情しか湧いてこなくて早くも挫折しかけていた。  それに、褒めようにもなかなかあいつと話すチャンスは訪れなかった。  あいつは常に皆に囲まれていて、その中に入って行ってまで褒めるのは流石に気が引けた。 (この間ふたりきりになれたときに何か褒めとくんだったな)  だが今更そう言ったところでしょうがない。  あのときはまさか三鷹が俺に惚れているなんて思いもしていなかったのだから。  虎視眈々と、俺は再びそのときが巡ってくるのを待った。  ――そして。 「お疲れ。ちゅんの」  バキっと手にしていたシャーペンの芯が折れた。  グラウンド端にある体育倉庫でクリップボード片手に明日使用する備品の最終チェックをしているときだ。 「だーから、それやめろって!」  勢いよく振り返ると三鷹がニコニコしながら倉庫入口に立っていた。 「ふたりきりのときはいいだろ?」 「よくない」  中に入ってくる三鷹にそう答えてからハタと気づく。 (ん? ふたりきり?) 「どう、全部揃ってそう?」  三鷹が俺の手元を覗き込んできて、俺は内心ほくそ笑んだ。 (チャンス到来!) 「あぁ、完璧だ。あとは明日の天気次第だな」 「そうだね」  言いながら三鷹はどんよりと曇った空を見上げた。  そう、明日はいよいよ体育祭。だが天気が問題だった。  明日の降水確率は50%。  全てのプログラムが終わるまで降らずに持ってくれればグラウンドで行われるが、雨になれば体育館に移動となる。  その場合、必要となる備品も色々変わってくるため頗る面倒なのだ。 「てるてる坊主でも作ろうか」 「は?」  三鷹の口から出たまさかのワードに思わず口がぽかんと開いてしまった。 「だから、てるてる坊主」  もう一度繰り返されて耐え切れずぶはっと吹き出す。 「てるてる坊主って、小学生かよ!」  真剣な顔で何を言うかと思えば。  と、三鷹が目を大きくしてそんな俺を見ていた。 「ちゅんのが笑った」 「あ?」  またちゅんの呼びされて、俺の笑顔はすぐに消えた。 「あ〜、またすぐそういう顔する」 「お前が変なこと言うからだろ。それにちゅんのはやめろって何度言えば」 「だってちゅんの、滅多に笑わなくなっちゃっただろ? 小学生の頃はあんなに明るかったのに」  誰のせいだと?  と、ツッコみたいのをギリギリ抑えて俺は平然と答える。 「そうだったか?」 「そうだよ。勿体ないよ。ちゅんのすごくカッコイイんだから、あの頃みたいにもっと笑えばいいのに」 「ハッ」  チャンスどうこうなんてすっかり忘れて、思わずそんな良くない笑いが漏れてしまっていた。  勿体ない?  あの頃みたいに?  お前が、俺から全部奪っていったくせに? 「ちゅんの?」  どす黒いものが腹に渦巻いて止まらなくなった。 「お前にカッコイイなんて言われるとは思わなかったな」 「え?」 「カッコイイのはお前の方だろーがよ、三鷹」  完全に皮肉のつもりだった。酷い顔をしていたと思う。  なのに。 「え……」  三鷹の顔がぼっと赤く染まった。  ――は? (なんだ、その反応) 「……いや、ごめん、君からそんなふうに言ってもらえるなんて思わなくて」  恥ずかしそうにはにかんで三鷹は続けた。 「すごく嬉しい。ありがとう、ちゅんの」  ……なんだこれ。  毒気を抜かれるとはこのことか。  なんだかもういっそ呆れてしまって、今の今まで腹にあったどす黒いものがすーっと消えていく。 「……だから、ちゅんのはやめろって」 「え~、みんなの前では絶対言わないようにするからさ」  大きく溜息を吐いて俺は体育倉庫を出ようとした。――そのときだった。  明日のために入口近くに用意していたハードルに足を引っかけ、俺は思いっきり前のめりにバランスを崩した。 (やっべ……っ) 「危ない!」  三鷹の声が間近で聞こえて、奴の腕が俺の腹に回った。  その腕に支えられて危うく俺は無様に倒れずに済んだ。  どっと冷や汗が出て、俺は背後の三鷹に謝罪する。 「わ、悪い。助かった」 「……」  ――え?  ぎゅっと、腹に回った両腕に力がこもって俺の思考は停止した。

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