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第5話 突然のハグ
(は? なに、が……?)
腹に三鷹の腕がしっかりと回っていて、背中に奴の体温を感じた。
首の後ろにはサラサラとした髪の感触があって。
そこでやっと、俺は今三鷹の奴に抱きしめられているのだと理解した。
「ねぇ、雀野……」
耳のすぐ後ろでそんな低い声が響いて、途端、全身が沸騰したみたいに熱くなった。
「――っ、離せ!」
怒鳴りながら奴の腕を振り払い、俺はそのまま逃げるように奴から距離を取った。
「い、いきなりなんなんだよ!」
顔が赤いのを誤魔化すためにメガネの位置を直しながらもう一度怒鳴る。
三鷹は酷く驚いたように目を見開いていた。
「……あ、ご、ごめん」
その目を伏せ謝罪の言葉を口にした三鷹は、すぐさまいつもの笑顔に戻って続けた。
「ちゅんのとたくさん話せて嬉しくなっちゃって、つい。ごめんね、びっくりしたよね。忘れて!」
そう言い残し、三鷹は俺の横をすり抜け校舎の方へと走って行ってしまった。
「……」
残された俺はそんな奴の背中を見送りながら、まだざわざわと落ち着かない胸の辺りを押さえていた。
が、ハタと我に返る。
(あれ? 俺いま、コクられるところだったのでは?)
***
「そんで、みすみすチャンス逃してヘコんでんのか」
「だってよ……」
体育祭当日。
どんよりとした空模様は相変わらずだが、なんとか午前中は雨も降らず無事全ての競技が終了した。
太陽が出ていない分紫外線も少なく涼しくて、このまま降らずに持ってくれれば絶好の体育祭日和と言えるかもしれない。
今は昼休憩。
俺は鳶田とふたり、クラスの皆から少し離れた木陰で弁当を食べていた。
「いきなり抱きしめられてビビったんだな?」
「ビビってねーし! ただ、びっくりして……」
そうだ。
別に、断じてビビったわけじゃない。単に驚いただけで。
――あのあと俺は気付いたのだ。
ネットで調べた相手から告らせる方法、「相手を褒める」「二人きりの時間をつくる」「告白しやすい雰囲気作り」を、あのとき図らずも全てクリアしていたことに。
だからあいつもその気になったのだろう。ネット情報恐るべし。
なのに俺はその絶好のチャンスを自ら潰してしまったのだ。
「あああああもう一回やり直してぇ~~」
俺が頭を抱えていると鳶田が溜息交じりに言った。
「でもよ、あいつそれで十分ダメージ負ったんじゃねーの?」
「え?」
「だってよ、コクろうと思ったらその前に拒否られたわけだろ? 俺だったらめちゃくちゃへこむけどな」
「でもあいつ、その後も腹立つくらいフツーだぞ」
クラスの皆に囲まれ楽しそうに笑っている三鷹を小さく指差し言うと、鳶田もそちらに視線を向けた。
「ああ見えて、内心では深く傷ついてるかも」
「そうか?」
「だからもうやめてやれって」
「いや、俺の積年の恨みはこんなもんじゃ晴れない」
すると長い溜息を吐いて鳶田は言った。
「お前さ、もっと凄いことされたらどうすんの?」
「は?」
凄いこととは?
「昨日あいつから抱きしめられたんだろ? それも俺的にはあんまし聞きたくなかった情報だけど。そんなんでビビっててよ、キスでもされたらお前の方がダメージデカいんじゃね?」
「だからビビってねーって……キ、キスぅ!?」
思わず声がひっくり返ってしまった。
キスって、唇と唇を合わせる、恋人同士がやるあれか!?
あれを、俺と三鷹が……?
「あ、ああああるわけねーだろ!?」
「わっかんねーよ? キスならまだいいけどよ、そのまま押し倒されたりしたらお前どーすんの?」
「おおおおおお前何バカなこと言ってんだ!」
「てか動揺っぷりが凄ぇし。顔真っ赤になってんぞ」
「なってねーし! お前が変なこと言うからだろ!」
指差し笑われて俺はズレてしまったメガネの位置を直した。
そのまま校舎に掛けられた時計を見上げ、そろそろ本部の方に戻らなくてはならない時間だと気付く。
「悪い、俺そろそろ行くわ」
「おお、大変だな。リレーも頑張れよ」
「ああ、ありがと」
「コケんなよ」
「コケるかよ」
笑って、俺は鳶田に手を振りその場を離れた。
そう、体育祭のラストは一番盛り上がるクラス対抗リレーがある。
俺も三鷹も毎年のように選手として参加しているが、リレーに関しては去年に続き同じクラスなのであいつと一位を争うわけではない。
しかしリレーの花形であるアンカーは俺ではなくあいつで、それが少々気に食わなかった。
ちなみにアンカーのあいつにバトンを渡すのは俺である。
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