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第19話 重なる想い
告白なんて絶対に出来ないと思っていた。
なのに、するりと抵抗なくそんな言葉が口から出ていて自分でも驚く。
でも言ったあとでドっと緊張が押し寄せた。
(い、言っちまった……!)
なのに奴は驚いているのか目を見開いたまま、なかなか口を開かない。
その沈黙がやたら長く感じられた。
と、その瞳が一度大きく揺れて、奴はゆっくりと首を横に振った。
「……嘘だ」
「は?」
小さく聞こえたその声に俺は眉を寄せる。
「雀野が、そんなこと言うわけない」
「はぁ?」
思わずムっとする。
俺が精一杯告ったというのに、嘘ってなんだ。嘘って。
「だって、雀野は僕のことが嫌いで、いつも僕のことを睨んでて」
「だから、それは悪かったって言ってるだろ!」
改めて言われると無性に恥ずかしかった。
しかし、事実は事実。これまで、ちょっと前まで、そうしてこいつを傷つけてきたのだ。
俺に怒る資格なんかない。
「俺だってまだ信じられねぇけど、そう気付いちまったんだから仕方ないだろ」
視線を外し、ブツブツとぼやくように言う。
「それとも、こんな俺はもう嫌かよ」
「嫌なわけないだろう!」
大きな声が返ってきて、見れば怒ったような真剣な瞳とかち合った。
「わかってる? 僕がどれだけ君のことを好きか」
言いながら、奴がこちらに近づいてくる。
俺がいつでも逃げられるように、ゆっくりと。
俺は逃げずにそんな奴をじっと見返していた。
手を伸ばせば触れられる距離まで近づいて、奴は言った。
「あとで冗談だって言っても、離してあげられないよ?」
「こっわ。なんでそんな脅すような言い方すんだよ」
「だって、僕すごく重いと思うし」
「それは、多分俺だって同じだろ。何年お前のことライバル視してきたと思ってんだよ」
「本当にわかってる? 雀野」
このとき、目の前で期待と不安に揺れる瞳がなんだかやたらと愛おしく思えて。
「――!」
俺は一歩踏み出して、奴の唇に自分のそれを合わせていた。
こいつとの、2度目のキスだった。
すぐに離れて見れば、その目が、そのまま落ちてしまうんじゃないかと思うほど大きく見開かれていて、俺はにっと笑う。
「この間のお返しな、蓮」
「~~っ!?」
「ハハっ、真っ赤になってやんの」
出会ったばかりの頃のように真っ赤に染まったその顔を見て満足感に浸っていると、ガシっと両肩を掴まれた。
そのまま引き寄せられて、もう一度唇が重なる。
3度目のキスは、それほど驚かなかった。
俺はゆっくりと目を閉じて、身を任せる。
幸福感、というのだろうか。
どうしても恥ずかしさは拭えないけれど、好きな相手と触れ合えて心が満たされていく気がした。
――ああ、俺って本当にこいつのことが……蓮のことが好きだったんだ。
そう、改めて実感することができた。
「……?」
しかし、この間よりも異様に長いそれに、だんだんと焦りを覚えてくる。
(キスって、こんなに長いもんだっけ?)
気になってうっすらと目を開いたときだった。
「んぅ……っ!?」
ぬるりと唇を割って生温かいものが口内に入ってきて驚く。
それが蓮の舌だと気づいて咄嗟に離れようとして、しかしいつの間にか後頭部に回っていた手でがっちりと押さえられて逃げられなかった。
角度を変えながら好き勝手に口の中を貪られて、恥ずかしさと怒りとよくわからない初めての感覚と息苦しさで目が回りそうだった。
「――はっ」
解放されたときにはもう全身の力が抜けていて、情けないことに俺は蓮に支えられてなんとか立っていられる状態だった。
「おま、ほんっと、ふざけんな……っ」
その肩口で息も絶え絶えに文句を言う。
そんな俺を優しく抱きしめて、蓮は笑った。
「だから僕は重いって言っただろう? それに、ちゅんのが余裕でなんかムカついたから」
呼吸を整えながらぐううと低く唸っていると蓮は俺の耳元で囁くように続けた。
「そんなんで、これから大丈夫?」
「あ?」
「僕はちゅんのと、これ以上のことがしたいと思ってるんだけど」
「これ以上って……っ!?」
俺の背中に回っていた手がゆっくりと腰の方に下りてきて、ぞくぞくっと鳥肌が立つ。
その意味に気付いてしまって、俺はまだうまく力の入らない足で慌てて距離を取った。
「な、何考えてんだよお前!」
「何って、だって好きなんだからしょうがなくない?」
そして蓮は楽しそうに続けた。
「そうだ。帰って来たらご褒美もらおっかな。それまでちゃんと勉強しておいてね。勉強得意だろう?」
「何をだよ!」
真っ赤になって怒鳴ってから、ハっと思い出す。
「帰って、来たらって……」
――そうだ。
こいつはもうすぐ海外に行ってしまうのだった。
折角、こうして気持ちが通じ合えたのに、もうすぐお別れなのだ。
そう思ったら急に寂しさが込み上げてきて、胸がきゅうと苦しくなった。
あげく馬鹿みたいに涙まで出そうになって咄嗟に俯く。
「夏休み後半には帰ってくるからさ」
「……は?」
一拍開けて、俺は間抜け面を晒していた。
「カナダで一ヶ月頑張ってくるから、いいだろ? ご褒美」
「……一ヶ月?」
呆けたように繰り返す。
「そうだよ。短期留学だからね。あれ? 母さんから聞いたんだろう?」
「――き、聞いてねぇし!」
思わず俺はデカい声で叫んでいた。
留学は留学でも、短期留学!?
てっきり何年も帰ってこないものだと考えていた俺は、なんでそう考えてしまったのかと時間を遡り。
(母さんが、お別れ会とか言うからだ……!)
おそらく母も留学と聞いて勝手に長期のものだと勘違いしたのだろう。
一気に脱力して俺はその場にしゃがみ込む。
「んだよ、焦って損した!」
「焦った?」
「留学っていうから、ずっと帰ってこないのかと思ったんだよ! 『最後の我儘』とか紛らわしい言い方しやがって!」
「へぇ。それで焦って会いに来てくれたんだ? 嬉しいなぁ」
俺の前に同じようにしゃがみ込んだ蓮が、嬉しそうににっこにこ笑っていて無性に腹が立った。
「別に焦ってなんかねーし!」
「えー、今ちゅんの焦ったって言ったよ?」
「うるせー! 言ってねー!!」
俺の怒鳴り声が、静かな神社に大きく響き渡った。
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