3 / 15
第1話 バー半月の同窓会
今日のバー半月は、貸切営業だ。
夜桜で花見をする予定だったのだが、あいにくの雨でお店を使うことにした。
「成瀬くん、フランスのお土産だ」
「ありがとうございます」
成瀬は龍樹から、エッフェル塔のキーホルダーを受け取った。
細かいところまで作られているんですねと成瀬は喜んでいるが、高瀬はタグに『Made in Japan』の文字を見つける。
「正月にも帰ってきていたのに、今度は何しに帰ってきた?」
「臣は俺に帰ってきて欲しくないのか?」
「…………………………いや……」
だいぶ間があったところをルルに突っ込まれるが、龍樹は気にしていないようだ。
「今度は日本の施設で仕事なんだって。なんか珍しい症例の人がいたんでしょ?」
「あぁ、臣によく似ているらしい」
「なら、しばらくここに住むのか?」
「それが、山に籠るんだって~」
日本にいるのにすぐに会える距離に居ないとルルは大袈裟に不満声を出す。
「仕事ならしょうがないですよ」
「ケンちゃんはお利口ね」
「そうですか?」
「も~、愛する人とはそばに居たいって思うのが普通でしょ?」
「愛……まぁ、そうですね……」
成瀬はチラチラと高瀬を見ながら、照れくさそうに同意した。
その高瀬の横で、レオニアがカウンターに頬を乗せながら同意している。
「僕もせんせに会いたい」
「レオニアさんの先生ですか?着物をプレゼントしてくれたっていう?」
珍しくバーに来ているレオニアは、珍しく酒を飲んでいる。
体調が良く、仕事も忙しくない、タイミングが良くなければ来られないのだと、高瀬が言っていた。
今日は本当にタイミングよく龍樹もいて、軽く同窓会のような雰囲気になっている。
「レオニア、その姿勢苦しくなるぞ」
だるいなら寄りかかれと、レオニアを息のしやすい体勢にさせた高瀬は、顔色を窺っている。
完全にレオニアの保護者だ。
「玲央はいつでも先生が電話をくれるだろ。日本にいるんだ時差もない」
「ふーん?じゃあ、これからはいつでも電話くれるの?」
「豪と僕は仕事の時間が違うだろ。タイミングが合えばだな」
「もう!」
「店が終わった深夜ならできるだろ?顔を見ながら話したって良い。施設の部屋は一人部屋だ。存分に楽しめる」
「……な、何もしないからね?」
ニヤニヤと笑う龍樹に、ルルの顔が引き攣った。
成瀬は仲良しですねと笑うが、高瀬にそっちを見るなと顔の向きを直される。
カランと成瀬が持っていたエッフェル塔のキーホルダーがカウンターを滑ってレオニアの前に止まった。
「懐かしいね、エッフェル塔」
「行ったことないだろ」
「そうだけど、フランスって感じするじゃん?」
「エッフェル塔行ったことないんですか?フランスで育ったのに?」
高瀬とレオニアの会話に、成瀬が驚く。
「無いな。ケンは、富士山に登ったことあるか?」
「……無いですね」
「そんなもんだ」
成瀬は高瀬の例え話に、なるほどと合点がいく。
観光地とは、そこに住んでいる人ほど行かないものだ。
「あ、僕もお土産あるんだった!くませんせと水族館行ってきたの」
「そんなに人がいるところに行って、くまちゃんもう有名人なのに、大丈夫だったの?」
「ん?まぁね。そんなに人は集まらなかったよ」
「そんなにって、顔バレしてるんじゃない」
ルルとレオニアの会話を聞きながら、成瀬は高校の先生ではなかったのか?とくま先生が何者なのか不思議に思った。
成瀬の疑問に説明を求める間は無く、レオニアはお土産だよと、カウンターに小さな魚のフィギュアを並べ始めた。
高瀬の前にマンタ、成瀬の前にエイ。
ルルの前にクラゲ、龍樹の前にコブダイ。
ニコニコと満足そうに披露するレオニアに、皆、苦笑を返す。
「みんなに似てるでしょ?」
「どこが?」
ルルが即答した。
「ルルちゃんは、綺麗だから。クラゲの水槽綺麗だったんだ~」
「それはありがとう」
ルルはニコリと笑う。水槽で見るより色がくすんでいるクラゲのフィギュアを、そっとグラス棚のはじに飾った。
「シンシアと成瀬くんは、見てわかるでしょ?そっくり」
「わからん」
「僕もコブダイはわからないな」
「そう?龍樹にそっくりだったよ?」
レオニアの雑な説明に、龍樹は顔を顰める。
「僕は性転換してない」
「どういうこと?」
「コブダイはメスからオスに性転換するんだ」
「わぁお。そうなんだ、知らなかった。なんかね、壁っぽかったから」
クスクスとレオニアは笑いだす。
それを見て、ルルも笑いだすが、高瀬はため息をついた。
「龍樹さん壁なんですか?」
「気にしなくていい」
成瀬の質問を高瀬はバッサリと切った。
成瀬以外の四人がわかっている雰囲気に、成瀬は高校時代の話かと、興味が湧く。
「聞きたいです!教えてください!」
成瀬の声に、ルルとレオニアがニヤニヤと笑い出し、とっておきの話を教えてくれた。
ともだちにシェアしよう!

