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第2話 それぞれの恋人
楽しく酒を飲んでいる時間というのは、本当にあっという間だ。
高瀬は、フラフラと頭を振っている成瀬をソファー席へと座らせた。
放っておいたらカウンターの椅子から落ちそうだったからだ。
高瀬の高校時代の話を聞けて、成瀬はご満悦だった。
ルルは奥の部屋に毛布を取りに行く。
おそらく成瀬と、レオニアも寝るだろうと。
龍樹とレオニアも滑舌が怪しくなってきている。
魚のフィギュアをカウンターで転がしていたレオニアは、ぽそりと呟いた。
「くませんせは、世界一の恋人だよ」
レオニアの隣で、真っ赤な顔をしている龍樹が、同じく呟く。
「豪の方が綺麗だろ」
「くませんせだよ」
龍樹とレオニアは睨み合う。
「やめろ。どっちだっていい」
仲裁に入った高瀬に、龍樹が問いかける。
「臣はどっちだと思う?」
「だから、どっちだっていい……」
「豪だろ!成瀬くんよりも豪だ」
「それは違うな」
成瀬を引き合いに出され、高瀬は即答し、ソファーでポヤポヤと笑っている成瀬に微笑む。
高瀬に微笑まれ、成瀬は幸せそうな顔をして、通る声で参加する。
「シンさんも可愛いですよ~」
成瀬の言葉に、撫でられている時の感覚を思い出して、高瀬はゾクリと体が反応した。
「わかった、もう、寝ろ……」
高瀬はそれだけ言って、レオニアの隣の椅子に腰掛ける。
半分目を閉じかけているレオニアは、自分の恋人が一番だとまだ不満そうな顔をしていた。
酒で顔色は良いが、瞬きの回数も増えている。
「レオニア、ソファー行くか?」
「んーん、大丈夫。まだ話してる」
高瀬はカウンターに寄りかかっているレオニアの体重を自分の方へと抱き寄せ、ため息を吐く。
その様子を見ながら、龍樹は思い出した。
「臣は、玲央のことは優しく抱くんだな」
「はぁ?」
「いや、成瀬くんが何度も求めるから仕方ないけど、結構激しかったなと」
「おいっ!」
完全獣化の後の満月の夜、半獣化した高瀬は、成瀬と初めて夜を共にした。
その時、龍樹がいることも忘れ、二人で夢中になっていたのだ。
全て見られていたなんて、成瀬には聞かせられない。
高瀬は慌てて成瀬に視線を送るが、成瀬は静かに寝息を立てていた。
ホッとすると、レオニアが高瀬の胸の中で笑っていた。
きっとあの満月の日のことはレオニアも気づいているのだろう。
高瀬は、笑う兄の背中を呆れながら撫でる。
些細な刺激でも発作は起きるからだ。
「臣……」
龍樹が真面目な顔をして、高瀬ににじり寄った。
高瀬は嫌な予感がして、身をひく。
「なんだ」
「通常の日のセックスについて、成瀬くんと話し合いはできたか?」
「はっ?!」
「してないのか?成瀬くんを満足させたいのなら、僕のおすすめはこれだよ」
龍樹は以前見せてきたアダルトグッズのページをスマホで見せてくる。
「うわ~、えっち~」
高瀬は嫌な顔をするが、レオニアは興味津々に覗き込んでいる。
「必要ない」
「本当か?」
「………………」
「成瀬くんなら、おもちゃにも付き合ってくれるんじゃないか?」
「………………」
高瀬は龍樹の言葉に多少揺れるが、無言のまま視線は鋭くなっていく。
「なに?なんの話?シンシアの顔怖いけど」
ルルは成瀬に毛布をかけて、レオニアが持つ龍樹のスマホを覗き込む。
レオニアは、無邪気な顔を向けて、ルルに聞いた。
「これ、龍樹のおすすめだって。気持ちいいの?」
「…………っ…………」
絶句するルルに、龍樹は得意げに笑った。
龍樹を見るルルの目も鋭くなる。
「ルルちゃん、どう?」
酔ったレオニアの舌ったらずな言葉が幼すぎて、ルルは曖昧に答えてやった。
「まぁ、ね……」
「そっかぁ~いいな~」
「えっ、だ、だめだから、レオニアは使ったら絶対にダメ!」
「え~?わかってるけどさ~」
むにゃむにゃと語尾が弱くなる。
高瀬は龍樹から視線を外してレオニアを抱き上げた。
「もう寝ろ。スマホは龍樹へ返せ。絶対に使うなよ」
「ん~」
眠る成瀬の向かいのソファーへレオニアを寝かせると、毛布を握って少し真面目な声が聞こえた。
「でもさ、僕もシンシアの気持ち少しわかるかな」
「ん?」
「僕はさ、無理できないから、せんせに我慢させちゃってると思うんだよね」
「だからって、変なものに興味を持つな」
「ん~……」
レオニアは含み笑いをしながら、高瀬の手を掴む。
「だからね、僕はせんせにいっぱい愛を伝えているよ。シンシアがしてくれるみたいにね。成瀬くんも、それは理解してくれると思うけどな」
高瀬は言葉を失うが、どうしても引っ掛かるのが、成瀬が元カノと別れた原因だ。
成瀬が元カノと初めて関係を持って、すぐに別れを切り出された。
おそらく、成瀬の求める回数が多いからだろう。
それは、成瀬のトラウマにもなっていて、高瀬との関係も一度、そのせいで途切れている。
「俺は、ケンのトラウマに触れたくない」
「そうだね。でも、シンシアが壊れるのは、僕が嫌だ……」
トロンとした目でそういうと、レオニアは瞼を閉じて、眠りについた。
高瀬はレオニアの言葉に何も言えず、カウンターに座る龍樹にスマホを返し、隣に座った。
「私も、ケンちゃんとは話した方がいいと思う」
「……わかってる」
「臣のプライドもあるか?」
「………………いや……」
「あるわね」
龍樹とルルにズバリ指摘され、高瀬はため息を吐く。
「ん~……」
成瀬の声が聞こえ、目を向ければ、毛布を蹴飛ばし寝返りを打っていた。
「あー、風邪ひくでしょ」
ルルは成瀬の毛布を直しにいき、顔にかかる髪を優しく撫でてあげた。
「ケンちゃんは、回数にこだわらないわよね」
ルルの小さな囁きは、カウンターの二人には聞こえない。
成瀬は、ルルの手をくすぐったそうに避けた。
「臣も半獣化をコントロールできればいいんだけどな。レオニアや神谷さんみたいに。成瀬くんが求める時にうまく半獣化すればいい」
高瀬の目が、また、鋭く龍樹を睨む。
龍樹に悪気はない。
それはわかるが、高瀬だって、コントロールできればやっている。
半獣化をコントロールできず、抑制剤も使えないから、満月のたびに苦しんでいるのだ。
成瀬の力だけが、今の高瀬の救いなのだ。
落ち込む高瀬の顔に、龍樹は何かを想い、目に光を宿した。
そんな二人の間に、ルルの焦った声が割り込んでくる。
「レオニア?!大丈夫?」
そちらを見れば、ルルがレオニアの体をゆすっていた。
高瀬も龍樹も慌ててソファーに向かおうとしたら、ゆっくりとレオニアが目を開ける。
「ん~?ルルちゃん、なに~」
「あ……今、息が荒かったから……」
「ふふ、ありがと~」
レオニアの様子に、高瀬も龍樹も胸を撫で下ろした。
レオニアは寝ぼけているのかルルに手を伸ばし、顔を近づけてハグをしようとする。
その瞬間、龍樹が勢いよく動き、ルルとレオニアの間に割入った。
そして、龍樹の唇と、レオニアの唇が綺麗に重なる。
「あれ、あはっ、あはははっ!」
酔いもあってか、レオニアの笑い声は大きい。
そして止まらない。
だんだんと、笑っているのに呼吸がおかしくなっていく。
「お、おい……」
高瀬はやはり焦ってレオニアの体を支え、龍樹は笑うレオニアの口に薬を放り込んだ。
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