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第4話 隣人・理央
休みの日の朝、成瀬はのんびりと目を覚ました。
隣には、裸で寝ている高瀬がいる。
昨晩生姜焼きにした豚肉は、ほとんどが成瀬の胃袋に収まっていた。
食欲が満たされ、次の日は休みだと気を抜いた成瀬は、別の欲が湧き上がってきて高瀬にねだったのだ。
裸で寝ている高瀬の髪を撫で、日付が超えるまで求めあった気持ち良さを思い出す。
確か、仕事のことで悩んでいたと思ったが、今は幸せな気持ちでいっぱいだ。
「シンさん、朝ごはん、食べませんか?」
時間的には、もう朝と言うには遅すぎる時間だ。
成瀬の声に、高瀬は小さく唸りながら身を丸めた。
完全獣化をしていた時の虎のようで、成瀬は頬を緩める。
「まだ眠たいですか?満月が呼んでいるのでちょっと行ってきますね」
優しく高瀬の頬を撫でて、成瀬は簡単に服を着るとカサカサとケージの中から呼ぶ満月の元へと向かった。
広くなったベッドの上で、高瀬は成瀬の温もりを求めるように毛布にくるまった。
「おはよ、満月。シンさんまだ眠いんだって。静かにしてあげような」
成瀬の言葉に、満月はフンと鼻を鳴らしてペレットを催促した。
餌の器を齧り、全く静かにする気はないようだ。
「満月……あ、牧草もう無いね。俺の部屋か、待ってて」
成瀬は新しい買い置きの牧草を取りに、先ほど寝ていた部屋の向かいにある部屋に向かった。
そこは元々、高瀬が一人で住んでいた時には空き部屋だったが、一緒に住むようになってからは成瀬の部屋になった。
成瀬は部屋のドアを開け、新しい牧草の袋を取ってから、憂鬱なため息を吐いた。
物が乱雑に置かれた先に、安物のベッドが置いてあるその部屋は、マンションの隣の部屋から移動させてきた時のままだ。
夜は高瀬のベッドで寝ていて、そのほかはリビングで過ごしているから、片付ける必要がない。
一度それで過ごしてしまったら、綺麗にするタイミングも必要性もなく、成瀬の部屋は引越しをしてから約二ヶ月そのままに放置されている。
「ここまで部屋のものを移動させないって、俺の私物はほとんど要らない物だったのかな」
思い入れがあるから、実家から持ってきた物ばかりのはずなのだが、仕事と高瀬との時間にかまけて物置のようになっている部屋の扉を成瀬はそっと閉めた。
リビングに戻り、満月に牧草をあげてから、朝食は何にしようかと冷蔵庫を開ける。
以前は何もなかった高瀬の家のキッチンには、成瀬が使っていた調理道具が入れられた。
シンプルな統一された家具の中、急にここだけが生活感を持っていて、成瀬は少し悪い気もしている。
冷蔵庫から卵やハムなど取り出していると、リビングの扉が開いた。
まだ眠たそうに丸まっていた高瀬が起きてきたのだ。
「おはようございます。シンさん、まだ寝てても大丈夫ですよ?ご飯できたら起こしますから」
職場では絶対に見られない、寝起きのぼーっとした顔のまま、高瀬は包み込むように成瀬を抱きしめた。
「ケンが居なくなったら、ベッドが広すぎて寝れない」
「なんですかそれ。広い方が寝やすいのに」
「寝れないんだ……」
ギュッと強くなる腕に成瀬は笑う。
一緒に暮らすようになって、高瀬の甘え方はますます強くなったように思う。
すると、満月が玄関の方に向いて耳をたて、じっと見つめ出した。
高瀬も不機嫌にため息を吐く。
二人の様子で、インターホンが鳴る前に、来客が来たのだと成瀬は気づいた。
「こんにちは〜。隣に引っ越してきました〜」
モニターで確認すると、成瀬と同じくらいの歳の青年が、立っていた。
黒く艶のある短めの黒髪を一つに束ね、クリッとした目は可愛らしく、成瀬とは別の意味で童顔の男は、小さな菓子折りを持って玄関の前で待っていた。
成瀬は軽く身なりを整えて玄関を開ける。
高瀬も先ほどの甘えた顔から少し外向けの表情を作って後ろからついていく。
玄関を開けると、青年の身長は思ったよりも小さかった。
「こんにちは」
「あ、どうも。隣に引っ越してきました。日野理央と言います」
「リオ?」
聞き馴染みのある名前に、成瀬は思わず聞き返してしまった。
高瀬も成瀬の家の庭にあった墓石を思い出す。
理央は急に名前を呼び捨てにされ、怪訝な顔をした。
「あ、ごめんなさい。昔買っていた猫と同じ名前だったから」
「猫?」
成瀬は弁解したが、理央はさらに顔を顰めた。
「あぁ!猫と一緒とかすいません。嫌な意味じゃなくて……」
「何それ!奇遇ですね!」
慌てる成瀬に、理央は吹き出した。
そして、屈託ない笑顔を向けて、成瀬の笑いも誘う。
ぎこちなく笑い合う二人は、その瞬間に意気投合したようだ。
高瀬は二人の感情を匂いで嗅ぎ取ることはできなかったが、雰囲気で察して、どことなく面白くなかった。
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