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第7話 満月

 理央の部屋でネットニュースを見ながら他愛のない話をしているうちに、陽が傾いてきた。 「俺、そろそろ帰るわ」 「ん〜、またね〜」  座っている成瀬の足元から体を起こして、理央は視線を上げる。  いつの間にか成瀬の足を枕にして理央は寝ていた。  大きなあくびと共に手を振られ、成瀬は苦笑する。  成瀬は理央の家を出ると、すぐに隣の自分と高瀬の家に入る。  隣に住んでいる友達の家はすごく楽だ。  地元では隣の家まで歩いて十分はかかる。 「ただいま、満月。隣にいたからわかってたか?」  リビングの満月のケージを開けてやると、待ってたと言うように満月は擦り寄ってきた。  転がっていた理央と、ずっと触れ合っていた太ももの部分の匂いを入念に嗅がれる。 「理央だよ。まだ直接会ってないもんな。こっち来てくれればいいのにな」  満月のケージを掃除して、ペレットと小松菜をあげていると、ぴくりと満月が反応して玄関に向かっていった。 「あ、シンさん帰ってきた?」  成瀬も玄関に向かうと、カチャリと扉が開く。 「おかえりなさい」  笑顔で出迎えれば、仕事中の難しい顔から破顔した高瀬が抱きついてきた。  まだ月は出ていないが、外は暗くなっている。  成瀬は高瀬を抱きしめ、背中を撫でながら高瀬の体調を心配した。 「大丈夫ですか?」 「あぁ。ただいま」  満月は、抱き合う二人の周りをふんふんと跳ね回りながら、成瀬の靴下をカジカジと噛み、かまってほしいアピールをする。 「わかったよ、満月。シンさん、ご飯食べます?まだ今日何にするか決めてなくて」  サッと満月を抱き上げて、リビングへ向かおうとする成瀬から、ふわりと隣人の香りがして、高瀬の心がざわついた。  成瀬の腕を強めに掴むと、浴室に引っ張っていく。 「ちょっ……シンさん?」 「まず風呂だ。満月を降ろせ」  急に不機嫌になった高瀬に、成瀬は理央が言ったヤキモチ妬いちゃうという言葉を思い出す。 「し、シンさん。今日会った人は、ちょっとした事故で、助けてくれただけですよ」 「は?」 「え?あの、くまらんさん?ちょっとぶつかっちゃって、匂い残ってるんでしょ?」 「あぁ、そうだな。でも、それじゃない」  高瀬はよく知っている匂いに今頃気付いたが、成瀬が知らないうちにくまらんと会っていたことよりも、長い時間くっついていただろう理央の匂いの方が気になった。  不思議そうな成瀬から満月を取り上げて、リビングへ離すと、成瀬を浴室へ引っ張っていく。  ざわざわとした気持ちは、そのまま体の変化につながっているのか、虎の耳と尻尾が出そうな気配がして体が疼いた。 「わ、わかりました。自分で脱ぎます!もう、理央の言った通りだ」 「は?」 「理央が、シンさんはヤキモチ妬くだろうって」  成瀬の態度と、理央という言葉に、心のざわつきが一際大きくなった。  まだ服を脱ぎきれていない成瀬を浴室へと引き込むと、二人一緒に服を着たままシャワーを浴びた。 「わぁっ!!ちょっとシンさん!」 「うるさい。もうしゃべるな」  高瀬は成瀬を壁に押し付けて、冷たいシャワーを浴びながら成瀬にキスをした。  もう、すぐに半獣化するだろう、衝動が強すぎて、理性が持たない。 「んっ……ね、シンさんスマホとか……大丈夫……」 「……っ……知らん……」  成瀬に言われ、ハッとしたが、もうそれ以上に成瀬が欲しくてたまらなかった。  冷たい水を浴びながら何度もキスを繰り返し、受け入れてくれる成瀬に甘え、首筋に顔を埋めれば、成瀬の匂いだけになっていて安心した。  ズクリと耳と尻尾が出てきた衝動に身を丸めれば、成瀬の手が背中を撫でてくれる。 「……ぅっ……ケン……」 「はい……」 「ケン……ケン……」  成瀬を抱きしめ、何度も名前を呼びながらしばらくシャワーの水を浴びていた。  成瀬は微笑みながら高瀬を撫で続けてくれる。 「悪い、乱暴なことをした……」 「全部満月のせいでしょ」 「悪い……」  びしょびしょの服を脱ぎ、成瀬はその場で高瀬の昂りに触れる。  成瀬だって期待していたのだ。  ゆっくり擦り上げて、これが自分の中で動くことを想像したら、たまらなく体が疼いた。 「シンさん……」 「あぁ……」  浴室から、成瀬の嬌声が上がるまで時間はかからなかった。  翌朝、成瀬は上機嫌に味噌汁を作る。  その横で、高瀬も機嫌よくご飯をよそっていた。 「シンさん、疲れてないですか?」 「あぁ、お前こそ、体は大丈夫か?」 「大丈夫ですよ。今日も休みならよかったのに……」 「まだ足りないのか?」 「だって、気持ちいいから……」  満月の夜ならば、半獣化した衝動の助けで成瀬と何度も交われる。  しかし、普段の行為では、高瀬は相当頑張っていた。  今、出勤前に求められると流石にきついものがある。 「いつでもできるだろ。一緒に住んでるんだ」  高瀬は成瀬の頭を撫でながら、営業トークのように何か半分誤魔化しながら言う。  それが自分の中に気持ち悪さとして残った。  ふと、龍樹が勧めてきていたスマホの画面を思い出し、スマホを探して愕然とした。 「スマホ……」 「え?あっ!!」  昨日脱ぎっぱなしにしていたびしょ濡れの服の中から、黒い画面のスマホを取り出して恐る恐る触れてみる。 「ダメですね」 「…………あぁ……」  データのバックアップは出来ているかと、高瀬は頭を回転させた。  成瀬はそっと、背中を撫でてくれていた。

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