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第8話 バーベキュー

 爽やかに晴れた連休の間にある定休日。  不動産屋にカレンダー通りの連休は存在しないが、定休日は祝日でも休みだった。 「いやぁ、最近は便利なサービスが多くて助かるね〜」 「バーベキューの場所取りから火おこし、食材まで準備してもらえるのはすごいですよね」 「子供たち連れてくるだけで事前準備が必要ないのはありがたいよ。僕の為にこんなに集まってくれたのも嬉しいね〜」  神谷はアウトドアチェアに座りながら、ルルの作るカクテルを飲んで上機嫌だ。  営業所スタッフのバーベキューだったが、高瀬が子守にルルを誘い、三浦とバレーをやるならばと成瀬が理央を誘っていた。  食事は終わり、肉を焼き切った神谷は父親の仕事を終えた達成感に浸っている。 「子供たちは、ほとんどケンがみてますけどね」 「……痛いところ突くね。そうだよ。今日の僕はただの肉焼きマシーンだ。成瀬くんにいい所を全て持って行かれた気分だよ」  神谷は円になってバレーボールを回している子供たちと、成瀬、三浦、理央の楽しそうな顔を眺め、多少のジェラシーを感じていた。  成瀬は本当にすぐ子供と仲良くなる。  ほぼ初対面にも関わらず、上は13歳、下は4歳の子供たちをまとめて、一緒にバレーをやらせているのだ。  更に上の子供達が居れば別だが、神谷だけではそれは難しい。  子供の興味をいっぺんに集中させるなんて、肉を焼き、食べさせること以外できそうも無い。 「ケンちゃんは子供に懐かれる才能があるんですよ。神谷さんは、頼りになるお父さんじゃないですか」 「ルルちゃんは優しいね〜」 「営業所で子守りの企画をするのはどうかと思いますけどね」 「……シンシア、今日は随分とトゲがあるね。成瀬くんを取ったのがそんなに嫌だった?それとも……あの子?」  神谷はチラリと理央を視線で指し、ニンマリと口角を上げる。  高瀬は面白く無い顔をして、神谷から目を逸らすと、神谷と同じようにニヤニヤ笑うルルと目が合った。 「男の嫉妬はみっともないわよ」 「嫉妬じゃない」 「でも、面白くないんでしょ?なんかすごく仲良しだし」 「………………」 「よし、シンシアの父親代わりとして、僕が理央くんを調べてこよう。軽く匂いを嗅げばすぐわかる」 「やめてください!」  立ち上がる神谷を引っ張って座らせ、高瀬はカクテルをあおった。  爽やかでアウトドアに合うカクテルだが、今は少しキツめの酒が欲しい。  ルルはため息をつきながらも、面白そうに眺めている。 「なんだよ」 「ん〜?シンシアが、ちゃんと恋愛してるんだなって、ちょっと嬉しくなっちゃった」 「…………なんだそれは……」  ルルは高瀬の髪に手を伸ばして、避けられないことを確認してから優しく頭を撫でる。  人に近づくことを恐れていた高瀬が、成瀬一人でここまで変わったのだ。  ルルの気持ちを察して、神谷も高瀬を撫でる。  両側から頭を撫でられ、高瀬は鬱陶しさに眉間に皺を寄せた。 「パパ〜、お茶〜。健一くんが水分取りなさいって〜」 「あ、シンシアおじちゃん良いな〜。僕もルルちゃんになでなでして欲しい」 「良いわよ〜。抱っこしてあげよっか〜?」  わ〜っと走ってきた子供たちは各々の水筒からお茶を飲みながら、大人たちの戯れに混ざってきた。  神谷は右に左に子供達の荷物を捌きながら、笑顔で話をする。  ルルも子供が好きだから周りに子供が集まる。  高瀬の周りだけは急に静かになった。 「はぁ、あっついですね〜。良い運動になります」  子供たちから遅れてやってきた成瀬に、高瀬の顔は綻んだが、成瀬の視線はすぐにバレーを一緒にやっていたメンバーに向いた。 「ナル、やっぱり運動神経良いな。こんな小さい子も混じらせて取れる玉送れるのすごいわ」 「そうですか?理央の方が俊敏ですよ。どんな玉でも取れてすごいです」 「それな、確かにすごいよな」 「そ〜かな。ボール遊び楽しいから」 「理央、バレーのルール覚えろよ。そうしたら三浦さん達と組んでるチームで試合できるじゃん」 「だいたいわかってるから、それで良くない?」  戦略を練る為にもルールは知っておかないとダメだろと、成瀬は理央を説得するが、三浦はやってるうちに覚えるだろと笑っていた。  高瀬は、三浦と組んでいるというチームとはなんだと顔を顰める。 「ねぇ、バレーボールの、あれ見たい!バシンってボール打つやつ」  成瀬達の会話に、神谷の子供の一人が入ってきて、目を輝かせて言った。 「あぁ、アタックの事?」 「ナルできるか?」 「俺セッターだったんで打つより上げる方が……あ、理央できるんじゃないか?ジャンプ高いし」 「なにすんの?」 「アタックだよアタック。俺がボール上げるから、打ち込むの」 「わかんないけど、やってみる?」  ぽんぽんと会話が進み、子供たちと成瀬たちはまた、芝生へと走っていった。  高瀬は成瀬と一言も会話できずに、目の前を通り過ぎる影のみを追っていた。 「若者の空気というか、スピードについていくのって大変だよね……」  ポンと高瀬の肩に神谷の手が置かれ、高瀬は膨れてため息を吐いた。  仕事中には絶対に見せない顔だ。 「シンシアも仲間に入れて貰えば良いじゃない」 「もう酒を飲んでる。別に良い……」 「わ〜、素直じゃない」  視線の先では、成瀬の上げたボールに、高くジャンプをした理央が、三浦に向かってアタックを決めていた。  バシッとハイタッチを交わし、ハグをしそうな距離感の二人に、高瀬の持っている紙コップは多少歪んだ。 「やっぱり行ってくる……」 「あら……」 「お酒入ってるんだから気をつけてね。無理しちゃダメだよ」  芝生へ向かう高瀬の背中に、神谷は心配しながらも面白そうに声をかけた。  チームプレイが必要なスポーツを、高瀬がどうやるのかも気になっている。 「シンシアだけはいつまでも僕から離れないと思っていたんだけど、もう恋愛を見守るのは過保護なんだろうね」 「そうですね。もう30ですから。でも、シンシアに対してはそうなりますよ。私たちもみんな」 「仕事中はしっかりと30歳なんだけどね〜。プライベートはどうも、遅れてきた思春期?」 「ふはっ!そうですね!」  ルルと神谷は顔を見合わせて笑う。  芝生の方では、高瀬がサーブを打つようだ。  高い打点から打たれたボールは、見事に飛んでいき、木の枝に引っかかった。 「あーーー!!!」  子供たちの声が重なり、続いて笑い声に変わった。  高瀬は悪いと言いながらボールを取りに向かうが、高瀬の身長でも届かない。 「え〜、どうしよう。シン……高瀬さん、肩車で取りますか?」  成瀬は二人の身長を足せばと提案する。  高瀬はその提案にパッと顔を明るくしたが、理央の声にそれは砕かれた。 「俺が取ってくるよ」  そう言って、スルスルと木を登り始めた理央は、簡単にボールを落とし、戻ってきた。 「すげっ!理央くん、いや、理央!猫みたいだな」  三浦は理央の呼び方を改め、降りてきた理央の肩をバシバシと叩く。  高瀬の隣にいた成瀬も、二人に駆け寄って、理央にありがとうと笑いかける。  子供たちもわらわらと周りを囲み、また、高瀬の周りには誰もいなくなった。 「神谷さん。シンシアにチームスポーツは少し難しいかもしれないですね」 「そうだね。でも……うん、理央くんはちょっと危険かもね」 「危険ですか?」 「ん〜、シンシアが変に拗らせて考えなきゃ良いんだけど……」  神谷は風に流れてくる理央の匂いを嗅ぎながら、目の色をブルーグレーに変えていった。  ルルはその目を横目で見て、また一波乱あるのかとグラスに氷を入れる。  戻ってくるだろう男のために好みのカクテルを作り始めた。

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