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第9話 指輪
平日の商業ビルを、高瀬は歩いていた。
以前、レオニアの会社の店舗物件を見に来たビルだ。
今日は成瀬が仕事で、高瀬のみの休日だった。
特に約束は無かったが、来たら居るだろうと何となくレオニアの店を覗いたら、案の定、店長と話しているレオニアを見つけた。
声をかける前に、匂いで気付いたのかレオニアが振り向く。
「シンシア!どうしたの?」
「近くまで来たから、居るかと思ったんだ」
「連絡してよ〜。居なかったら寂しかったでしょ」
「でも、居ただろ?」
レオニアの会社は三つの店舗とECサイトがある。社長のレオニアがどこにいるかは、秘書のような仕事をしている側近しか把握できていない。
レオニアが気分で行く先を決めるからだ。
高瀬は自分の勘は当たるのだと笑って見せた。
「社長……」
「あぁ、ごめんね、僕の弟だよ」
レオニアに紹介されて、高瀬は軽く頭を下げた。
「さっきの商品は良いと思うよ。あとは任せるから、好きにお店に並べてみて」
「はい」
レオニアは店長に指示をすると、高瀬を店の奥へと連れて行く。
「長居するつもりはないぞ」
「良いから、見てってよ」
二人だけの時は、自然とフランス語になる。
店員たちからの視線を受けながらレオニアについて行くと、綺麗に並んだ可愛らしいグッズが現れた。
「子供用……?」
「ここ、子連れが多いからさ、可愛いグッズ揃えてみたの。プレゼント用にも好評なんだよ」
「チーターか……」
「うん!」
レオニアは嬉しそうにチーターのプリントがされた、小さな帽子を手に取って見せてきた。
ユニセックスのアクセサリーが並ぶ店の入口とは対称的に、奥は随分とアットホームな雰囲気だ。
「アクセサリーも人気なんだけどね。ECサイトでも、子供用の商品は人気なんだ」
「父さんが喜びそうだな」
「でしょ?ライオンと、虎も増やそうと思ってるの」
ニコニコと笑うレオニアに、高瀬は柔らかい笑顔を向けた。
レオニアは商品を眺めて、満足そうに笑っている。
「あ、そうだ。この前のバーベキューはどうだったの?会社の人とルルちゃんが来てたんでしょ?楽しかった?」
「…………写真で送った通りだ」
笑っていた高瀬の顔が一瞬で変わり、そっけない返事をした事に、レオニアはピンと来た。
スンと鼻を鳴らすと、高瀬はより眉間に皺を寄せる。
「成瀬くんに新しい友達が出来たんだよね。黒髪のちっちゃい子?」
「あぁ……」
「シンシアの腕輪はさ、首輪なんだっけ?」
「ん?あぁ……」
高瀬は仙吉に貰った腕輪に触れて、成瀬の家族の温かさを思い出す。
「ねぇ、成瀬くんにも首輪付けておいたら?」
「は?」
レオニアはそう言うと、店の商品を見渡しながら考え始める。
楽しそうなレオニアの後をついていきながら、高瀬も成瀬に似合うものをと考えてしまう。
「そうだな〜。成瀬くんならブレスレットよりもネックレスの方がいいかな。それとも……指輪にしちゃう?」
ピタリと指輪の前で止まったレオニアは、イタズラっぽく笑いながら、自分の左の薬指に付いているリングを見せてきた。
「くまさんか……?」
「それ以外にいないよ。いいでしょ〜」
「やっと貰ったのか。良かったな」
「やっとって……でも……うん、そうだね。ようやく貰えたんだ」
指輪に触れながら、レオニアは幸せそうに笑う。
そして、高瀬にゆっくりと抱きついて、胸に顔を埋める。
「Merci, Cynthia.(ありがとう、シンシア)」
「何もしてない」
「してくれたんだよ。シンシアが居てくれたから諦めずに済んだって言ったでしょ?」
高校の頃からのレオニアの気持ちを考え、高瀬はそっと背中に手を回した。
成瀬に指輪を贈るのも悪くないかと、レオニアの提案を受け入れる。
「レオニア、ケンの指輪選んでくれるか?」
「いいよ〜。あ、でも、うちの商品で良いの?婚約指輪みたいに高価じゃないよ?」
「構わない。高価なものはあいつが嫌がるだろ」
「そっか」
レオニアは商品を手に取りながら、眺めて数個候補を出してきた。
「成瀬くんならシンプルな方がいいよね。シルバーかな?あ、指のサイズはわかる?」
「サイズ……」
盲点だったと高瀬は、言葉を止めた。
レオニアも、成瀬本人が知らなそうだねと苦笑する。
「ねぇ、これってサイズあるかな?」
「ありますよ」
レオニアが聞くと、店長はすぐに棚下を開けて指輪を取り出してくれた。
「サイズは、後からでも直せるよ。大体16・17くらいかな」
「……そうだな……レオニア、手を貸してくれ」
「ん?はい」
高瀬はレオニアの手を掴むと、手のひらを合わせ、指を絡めた。
それを見た店長は、営業スマイルが多少引きつったが、レオニアは気にしていないようだ。
「何してるの?」
「ケンの指は、お前よりはしっかりとしていて骨ばってるな。長さは似てると思ったけど」
「ははっ、それってさ……ま、いいや……ふふふっ……」
手の感覚で相手の大きさを覚えている。よほど良く触れ合っているのだと言っているようなものだ。
レオニアは深くは言わず、堪えきれずに笑いながら店長へ、自分よりも一つ上のサイズの指輪を包むように言う。
「おい、ゆっくり息をしろ」
「ははっ、シンシアが悪いんだからね」
高瀬はレオニアの背中を撫でながら、とりあえず座れと体を支える。
距離感が近すぎる二人に、恥ずかしそうに顔を伏せる店長の様子には二人とも気付かなかった。
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