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第18話 理央の提案
翌朝、高瀬の血は止まり、傷はほとんどわからなかった。
成瀬は血がついたベッドのシーツを洗濯機に入れて、スイッチを押す。
「悪かった……」
「大丈夫ですよ。洗濯すればすぐに落ちますから」
シーツのことを謝っているのではないことは分かっていたが、明るくそう言うしか成瀬にはできなかった。
高瀬が自分を傷つけてまで帰ってこなかったのは、成瀬のためだと思っていたが、どうも高瀬の様子がおかしい。
「気にしないでください」
「あ、あぁ……」
笑顔で高瀬の腕に触れようとしたら、サッと身をかわされた。
まただ……。
朝起きてから、触れようとしても、うまく避けられている。
これには、ジワジワと成瀬は傷つく。
少し前までは成瀬が我慢できなくなるからと言っていたが、高瀬が避ける理由がわからない。
また、傷つけると思っているのだろうか。
「シンさん、mignon……」
「……っ……あ、あぁ……」
「俺は怖くないですよ。シンさんと居られればそれで良いんです。我慢じゃない……」
「そう、だな……俺も、ケンと一緒にいたいんだ。でも、だから…………悪い……」
高瀬はそう言うと、食卓へ向かっていった。
成瀬は煮え切らない思いを抱えながら、乾燥機から出した理央の服を畳んで紙袋に入れた。
今日、理央の部屋の前を通る時にドアノブに引っ掛けて行こう。
「ケン、悪い、呼び出しだ。先に出るな」
高瀬は朝食に成瀬が作ったおにぎりを片手に、スマホ画面を見せて玄関に向かった。
神谷の名前が見えたから、成瀬も素直にわかりましたと言い、見送る。
いってらっしゃいのキスは出来なかった。
「じゃあ、満月、留守番頼むな」
成瀬は忘れずに鍵を閉めてエレベーターに向かおうと振り向く。
その瞬間、目の前に理央がいた。
「びっくりした……声かけろよ……」
「ごめん、気付いてると思って」
「俺はそんなに敏感じゃないの。何、今日は一限からなの?」
「あーうん」
「あ、お前さ、服はマンションに置いて行けって言ったけど共有スペースは無いだろ。これ、洗濯しといたから」
「ありがと」
理央は洗濯物を受け取るが、何か言いたそうな顔をして、口を開けては閉じていた。
随分とおとなしい様子に、いつもの理央らしくないと成瀬は不思議に思う。
「寝起きか?具合悪いとか?」
「ううん、違う。あのさ……シンさん、大丈夫かなって……」
「あ…………聞こえてた?」
「流石に話し声までは聞こえないよ、物音とか大声じゃないと……」
「そっか……大丈夫、だと思う……傷はもう治ってたみたいだし」
「傷っていうか……なんか、俺のせいかなって……」
「なんで?」
成瀬は心底わからないという顔をする。
理央と高瀬の間で知らないうちに何かあったのだろうか。
「……あー……いや、いいや。ケンチは何悩んでんの?」
「…………理央は鋭いよな……」
成瀬はエレベーターを降りて、駅へ向かう道すがら、高瀬になんとなく避けられている事を話す。
「シンさんが、何を考えているのかわからなくて」
「………………」
「俺に触るの怖くなっちゃったかな……」
「俺は、獣化の苦しみわからないんだけど、抑制剤も要らないし。でも……シンさんが距離を置きたいって思っているなら、今日は俺の部屋で寝る?」
「え……?」
理央は、昨晩見た高瀬の様子を思い出す。
苦しみながらも成瀬を求めていた。
だから、理央は帰ればいいと示したのだ。
それなのに、成瀬の言う高瀬の様子は少し違う。
高瀬は何と戦っているのだろうか。
よくわからないと、理央は思考を止めた。
隣を見れば、同じように思考が止まっている成瀬がいた。
「え……理央の部屋で?」
なんとなく顔が赤い。匂いを嗅がなくても何を考えているかわかる。
「変な想像しないでよ。うちベッドもソファーもないけどさ、もう凍えるほど寒い季節じゃないじゃん。離れて眠れるだろ」
「そ……そうだよな……わかってるよ」
「じゃあ、今日はうちに泊まりな」
「え……あ、いや…………」
成瀬は朝からめいいっぱい頭を働かせて考えた。
高瀬が距離を取りたいと思っているのならば、理央の提案を受けるべきだ。
しかし……。
「家に帰るよ。俺は、シンさんと一緒に居たい」
「……ふーん……そっか」
理央はニコリと笑うと、改札機にスマホをあてて駅へと入っていった。
そういえば、服を脱ぎ捨ててもスマホは無くさないよな。
鍵は持ち歩かないのに。
「なぁ理央、猫用のリュック買ってやるよ」
「は?」
理央の面倒そうな顔が帰ってきたが、成瀬は高瀬の営業を真似て、リュックのプレゼンを始めた。
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