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第23話 研究所の歓迎と不穏な空気

 階段を上がりきると、研究所の正面エントランスだった。  普通の病院のような綺麗な外観。  だが、山の中でここだけが人工物で、高瀬は自然に飲み込まれそうだと大きな建物をとても小さく感じた。  綺麗な建物の奥には少し古びた建物も見え、ここの歴史も感じられる。  背中のレオニアを背負い直すと、綺麗な建物の自動ドアから龍樹が出てきた。  エントランス前の車の鍵を開けて乗り込もうとした瞬間に、高瀬と目が合う。 「臣!遅いから駅まで迎えに行こうかと、レオニアは……どうした、大丈夫か?」 「昼寝だ……」  高瀬に背負われているレオニアを見て慌てる龍樹に、一言で返せば、あぁと落ち着いた。  高瀬のボストンバッグを預かって、二人でそのまま建物へと入っていく。  自動ドアを入ると、ホテルのような雰囲気の造りに高瀬は驚いた。 「すごいな……」 「最近立て直したそうだ。寄付が集まっているからな」  龍樹は視線で、エントランスの中央に展示されている彫刻を指し示した。  説明されなくても誰の作品なのかわかり、高瀬はゆっくりとそれに近付く。  徐々にザワザワと心の中が落ち着かなくなってきて歩みを止めると、龍樹が顔色を伺ってきた。 「どうした?」 「……いや……」 「あまり近付かない方がいいか?」 「…………多分、大丈夫だ……」 「やめておきなよ、シンシア」  高瀬が一歩踏み出そうと思ったら、後ろから寝ていたはずのレオニアの声が聞こえてきた。  目を覚ましたレオニアに、龍樹が疑問を投げる。 「どういうことだ?」 「よくわからないけど、シンシアが怖がってるから」 「怖くなんて……」 「本当?」 「…………」  レオニアは高瀬の背中から降りると、彫刻に触れて柔らかく笑った。 「のらきち……さん?やっぱり、良吉さんの作品でしょ?」 「あぁ。玲央は何ともないのか?」 「うん。すごく優しい感じがする。暖かい……」  高瀬は距離をとりつつ、彫刻を眺め、若干肩を落とした。 「俺は、認めてもらえないってことなのか……」 「認める……?神社の石碑の時は成瀬くんを守れと言われてたんじゃないのか?」 「…………俺は……守りきれてない……」  龍樹は先日のメールの返事と高瀬の表情をつなげ合わせて、何となく納得する。  彫刻に羨望の目を向けるレオニアを呼び、二人の部屋へと案内することにした。  龍樹に案内された部屋は、これもホテルのようにしっかりとした部屋で、すでにレオニアの荷物が届いていた。 「一人部屋もあるけど、レオニアのお守りの為に二人部屋にさせてもらったよ。狭くは無いと思うけど何かあったら言ってくれ」 「すごいね。もっと病室みたいなの想像してたよ」 「レオニアはそっちの方が落ち着くか?それならそういう部屋も研究棟にある」 「まさか、やだよ」 「………………」 「絶対嫌だからね!」 「じゃあ、大人しくして発作は起こさないことだ」 「……わかってる……」  高瀬は龍樹の忠告に、心の中で親指を立てた。  医者に言われるとやはり違う。  レオニアは二つ並んだベッドの一つに転がって大人しくしてるポーズを取り、高瀬と龍樹のやり取りを見た。 「治験薬は明日から飲んでもらう。食事もこちらが用意したものを食べてもらう。悪いが食事の時間も管理させてもらうから、多少不便かもしれない」 「わかった。それは大丈夫だ」 「僕も一緒に付き合うから大丈夫だよ」 「……玲央も薬を飲むつもりか……?」  龍樹は当たり前だという顔をするレオニアを見て、額に手を持って行くと、小さくため息をついて、バッサリと言い捨てた。 「飲ませられるわけないだろ」 「え、なんで!」 「玲央にはしっかりと効く抑制剤があるんだ。わざわざ危険かもしれない事はする必要はない」 「じゃあ、僕が来た意味がないでしょ」 「…………あぁ、何しに来たんだ?」 「……ひどい……龍樹……」  レオニアは龍樹の言葉に固まり、シーツに埋もれていった。 「とりあえず。今日はゆっくりしててくれ。夕飯は食堂に案内する」 「獣化コントロールの訓練の方はどうするんだ」 「…………」  龍樹は目を伏せ、追って連絡するとだけ伝え部屋を出ていった。  龍樹の様子が少し気になったが、高瀬はベッドに埋もれる塊に目をやり、優しく声をかける。 「俺は、お前が来てくれて嬉しいぞ」 「それくらい素直に成瀬くんにも言えたら良いのにね」  レオニアの言葉は完全に八つ当たりだが、ここで拗らせて夕飯もいらないと言い出させないよう考えながら、高瀬はゆっくりと近付いた。  高瀬たちの部屋を出た龍樹は、研究棟の自分の研究室へ行くと、先日の会議資料を手に取った。それは、獣人研究で名のある権威達のサインが並んだ実験計画書だ。 「無茶な実験だ……臣、すまない……」

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