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第27話 プレゼント作戦会議

 バー半月のカウンターに立ち、ルルは多少の寝不足と腰の痛みに耐えていた。  昨晩、閉店後に恋人とビデオ通話をしていたのだ。  入り口のウインドウチャイムが鳴り、いらっしゃいませと顔を上げたら、成瀬と理央がいた。 「ルルさん、モスコミュールください」  成瀬は先日飲んだカクテルが気に入ったようで、最近はずっとそれを飲んでいる。 「なんだかご機嫌ね。理央くんも一緒のでいいの?」  ルルの問いに理央は黙ったまま頷いた。  高瀬が研究所に行ってから、成瀬は理央と行動することが以前にも増して増えているようだ。  ニコニコとしながらカウンターに座った成瀬は、今日も成約になったんですと報告してきた。 「やるじゃない。お仕事順調みたいね」 「はい。ちょっと自分にご褒美あげたくなって来ちゃいました」 「ご褒美って、結構頻繁に来てない?」 「いや、今日はテキーラのショットでも頼もうかと」  成瀬は理央の前だからか、いつもより少し格好をつけて話をしている。  理央はそんな成瀬に頬を緩めながら、隣に座ってルルからモスコミュールを受け取った。 「ケンチそんなの飲めるの?実はあんまり強くないよね」 「飲める。前にも飲んだし」 「前……すぐに潰れちゃったじゃない……」 「あれは、その前にも結構飲んでいたからで……」  ルルの呟きに、成瀬は必死に取り繕うとする。 「それに、明日休みだから別にいいの。どうせやる事無いし」  成瀬は言葉尻に寂しさを匂わせながらモスコミュールを飲み込んだ。  ルルはそんな成瀬に、龍樹との話を告げるべきか悩む。  研究所が多少不穏なことは、今寂しがっている成瀬には心配の種になるだろう。  ルルは首を振って、ジンジャーエールの瓶を片付ける。  ルルが動いたことで、ふわりと良い香りが漂った。 「ルルさん、香水変えたんですか?」 「あ……まぁ、ね……」 「良い香りですね。なんかちょっとセクシー」  成瀬は目を細めて素直に褒める。  お茶のような落ち着きと、微かに残る花の香りが、ルルによく似合っていた。 「た、たっちゃんのお土産なのよ」  昨日はビデオ通話で盛り上がったが、朝起きたら何となく寂しさと虚しさが込み上げてきて、何となく龍樹を求めるように体にふりかけていた。  ルルは成瀬と同じような気持ちを接客用の笑顔の中に閉じ込めた。 「フランスの香水かぁ。龍樹さんおしゃれですね。俺も香水付けてみようかな。できる男っぽくない?」  成瀬はスーツの襟元に鼻を寄せながら、理央に笑いかける。 「やめなよ。シンさん嫌がるよ。俺も嫌だし」 「え、なんで?」 「……獣人はそんなもんなの」 「あ、そうか」  理央はルルに申し訳なさそうな顔をしながらも言葉にした。 「そういえば、猫になれるんだっけ?」 「そうなんですよ。びっくりしちゃって。俺も始めはただの黒猫だと思ってたんですけど、急に人間になって、それが理央で、頭追いつかなくて〜」  成瀬は笑いながら以前の裸の理央を抱っこしていた事件を話し始めた。  話の流れがよくわからないが、理央が自由に猫になれることだけは理解できる。 「シンシア以外にも完全に獣化できる人いるのね」 「シンさんは虎にならないんですか?」 「自由にってわけにはいかないの。シンシアは色々と特異体質なのよ」 「……そうですか……それで研究所に……」  理央は何かを考えながら、難しい顔をしたが、すぐにまあ良いかと顔をあげた。  そんな理央の様子を、成瀬は理央より少し高い位置から眺め、優しい顔でつぶやいた。 「理央って……可愛いよな」  成瀬の通る声は、店内に響いてから消え、一瞬静寂が現れた。  言われた理央本人も、聞いていたルルも固まっている。 「何……」  理央は頑張って絞り出した声で成瀬を恐る恐る見上げる。  成瀬はポンと理央の頭に手を置くと優しく撫で始めた。  途端に、理央はトロンとした顔をして、その手に鼻を寄せ始める。 「ま、待って!」  何か特別なふれあいが始まりそうな二人の行動に、ルルは慌てて手を差し込んで止めた。  こんな状況を高瀬に見られたらどうなるか。 「ケ、ケンちゃん酔ったのかしら、お水飲みましょ」 「別に大丈夫ですけど」  成瀬は慌てるルルを不思議そうに眺めながら、理央から手を離す。  理央はハッとしながらも、その手を惜しそうに見つめていた。 「ケンチ……今の、シンさんの前では絶対にしちゃダメだよ……」 「何が?」 「俺を撫でるとか……ケンチの手ってなんか特別な感じするんだよ……擦り寄りたくなる」 「そうなの?え、変な意味は無いからな?」 「わかってるよ。でも、本能って言うか……」 「……お、俺は、理央って小さくて可愛い顔してるし、なんていうか……」 「それ、褒めてない」  成瀬は思ったことを言ったが、理央はコンプレックスだったようだ。慌てて他にも褒めるところはあると言葉を続ける。 「その、服とかアクセサリーとかもオシャレじゃん?猫になってすぐにどっか置いて来ちゃうけどさ……」  言いながら、ふと思いついた。 「……アクセサリー……シンさんに、プレゼントしよう……」 「「え?」」  突然の成瀬の呟きに、ルルと理央が同時に反応した。 「あ、ごめんなさい。俺、クリスマスもプレゼント渡してなかったから、シンさんに何かプレゼントしたいなって。それをきっかけにちゃんと気持ちも伝えられるかなって思って。帰って来た時のサプライズ?みたいな」  成瀬は照れ笑いをしながら、モスコミュールに視線を落として高瀬を思い出す。  そんな成瀬に、先日の高瀬の指輪を思い出して、ルルは勢いよくカウンターに乗り出した。 「良いじゃない!それ、すごく良いと思うわ!シンシア誕生日だし」 「……誕生日?」 「何、知らなかったの?」  恋人なのに誕生日を知らないのはルルとしてはあり得なかったが、おそらく高瀬が言わなかっただけだろうと推察した。 「知らなかったです。うわっ、俺、シンさんの誕生日知らなかった!」 「ははっ、何それ」  ことの重大さに気付いたと成瀬は慌てる。  理央は隣で高瀬と成瀬らしいと楽しそうに笑った。 「良いじゃない。これから祝うんだから。ちょうど研究所から帰ってくる日が誕生日よ」 「そうなんだ……そっか、ありがとうございます。俺、誕生日も含めてプレゼント探します」  そこからは、どんなプレゼントが良いかと三人で作戦会議になった。  獣人の理央の意見はとても参考になったが、次第に成瀬の肩に寄りかかってカウンターの椅子に座ったまま猫のように器用に眠ってしまった。

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