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第30話 会いに行く決意
成瀬は緊張した顔で新幹線の座席に座っていた。
理央の話は、成瀬が不安になるには充分だった。
すぐに二連休があったから、迷わず新幹線のチケットを取った。
満月をお願いしますとルルのところへ行ったら、龍樹から聞いたという話もかなり不穏だった。
シンさんに何もないと良い……。
神谷に相談した時にはまず電話をしてみなさいと言われ、その場でかけた。
高瀬は長いコール音の後にようやく出てくれ一言。
大丈夫だ。
この声が、明らかにいつもと違った。
高瀬は来る必要はないと言ったが、無理をしているとわかり過ぎる声に、成瀬は研究所へ向かう決心をしたのだ。
「ねぇ、ケンチ。新幹線のアイス固すぎじゃない?全然食べらんない」
成瀬の隣の席で、理央が車内販売で買ったアイスにスプーンを突き刺していた。
成瀬は険しい顔のまま、理央に向いてもう一度研究所の話を聞く。
「理央、シンさん研究所で苦しんでるのかな……」
「どうだろ、自由は無いし、あまり美味しくもない食事も好きに食べられない。コントロール訓練は苦しい時もあったし。俺は大丈夫だったけど、薬の副作用とかもあるかもしれないし。実験動物みたいにされる前に出たほうが良いとは思うよ」
「…………シンさん………」
成瀬は自分の手を握りしめて見つめ、アイスを食べる理央の頭を撫でてやる。
「ついて来てくれてありがとな、理央……」
「ん?多分俺が居た方が入るのも楽でしょ。俺も置きっぱなしの私物取りに行きたいし」
「怖くないか?研究所に入るのが怖かったら、俺が取って来てやるから」
成瀬はさらに優しく理央を撫でてやると、ピョコンと理央の頭に猫の耳が出てきた。
「わっ、理央。ここでは猫になるな。ケージに入らないといけなくなる」
「ん〜……面倒だな……」
成瀬に擦り寄って目をつぶった理央は、あっという間に寝てしまう。
高瀬とは違う小さな体を弟かのように優しく見つめて、成瀬は緑が増えた山の景色に気合を入れた。
研究所の最寄りの駅には何も無かった。
無人の運賃支払い機にカードをかざして、成瀬は研究所へ続くと書かれた看板に従って階段を上がっていく。
「ケンチ、待ってよ〜」
後ろから着いてきた理央に声をかけられて、成瀬が振り向くと理央の姿は無く、脱ぎ捨てられた洋服だけが階段に引っかかっていた。
黒猫になった理央は、成瀬の横をすり抜けて駆け上がっていく。
「理央、だから服!スマホとか貴重品もあるだろ」
成瀬は理央の脱ぎ捨てた服を拾って、後を追いかけると理央は研究所の入り口のところで綺麗に座って待っていた。
成瀬が追いつくと、自動ドアが開いてしまう。
「わっ……」
心の準備もできずに緊張する成瀬に対して、理央は何食わぬ顔で中へ入っていった。
「え、待って」
成瀬も理央を追いかけると、中はまるで高級なホテルのようだった。
「すご……」
「あれ、理央くん?理央くんでしょ!」
受付カウンターの向こうから一人の女性が猫の姿の理央に気付いて内線でどこかに話し始めた。
「理央くんです。正面玄関から入ってきました。え、捕まえるんですか?」
明らかに事務の仕事をしていそうな女性は、自分には出来ないような仕事を言われて困惑していた。
成瀬は不穏な言葉を聞いて、理央を抱き上げる。
「なぁ、堂々と入ってきて大丈夫だったのか?」
不安な成瀬の言葉とは裏腹に、理央は成瀬の手に擦り付いている。
「あ、あの、こちらのソファーに座ってお待ちいただけますか。理央くんはそのまま抱っこしててもらえると……あ、えっと、どちら様でしょうか」
受付の女性は、成瀬に懐いている理央の様子を見て、誰かが来るまでそうしていてくれと必死な目で訴えてきていた。
成瀬は理央を抱き直して、しっかりと名乗る。
「高瀬臣さんに会いにきました。理央には付き添いで来てもらっているので、ここに帰ってきたわけではありません」
「わかりました。高瀬臣さんですね。面会の申請がありましたので、ご連絡いたします」
ちゃんと連れて帰るとアピールをして成瀬はソファーへと座る。
ソファーの柔らかさと、理央の警戒心の無さが成瀬の緊張を少し解いた。
エントランスホールを見回すと一つの彫刻が目に入った。
やけに懐かしい感じのする彫刻は、そこだけ柔らかい空気を纏っている。
良吉さんかな……
彫刻の柔らかい雰囲気に成瀬はさらに肩の力を抜いていく。
すると、後ろから名前を呼ばれ、聞き馴染みのある声に立ち上がった。
振り向くと、顔を確認する前に抱きしめられた。
「よく来てくれたね!」
高瀬によく似た声だが高瀬の話し方ではない。
「レオニアさん……」
「猫ちゃんも一緒?可愛い」
レオニアと成瀬の間で挟まれた理央は苦しそうにモゾモゾと動きながら成瀬の手から降りていった。
そしてあっという間にどこかへ行ってしまう。
「あっ、理央!」
成瀬が追いかけようとすると、レオニアが成瀬の手を引いて部屋に案内すると歩き始めた。
「猫ちゃんは大丈夫だって」
「え?」
「彼、獣人でしょ?すごいね。シンシア以外にも完全獣化できる人いるんだね。しかもあんなに自由。僕もライオンになれるかな」
レオニアは理央の匂いを追うように鼻を鳴らして、もう一度大丈夫だと笑った。
理央から聞いていた研究所のイメージとはだいぶ違ってきたが、成瀬は高瀬に会うためにレオニアに着いていく。
高瀬本人が迎えに来なかったことに多少の不安を抱きながら。
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