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第31話 再会とすれ違い

「成瀬くん、連れてきたよ〜」  レオニアに案内された部屋は、研究所というよりは、やっぱりホテルのようだった。  中からは龍樹が苦笑しながら出てくる。 「やっぱり来たんだね」 「はい。シンさんは?」 「寝てるよ」  二つ並んだベッドの一つに、高瀬はいた。  苦しそうな表情はなく、ただぐっすりと眠っている姿に、成瀬は少しだけ安心する。 「どうして、眠っているんですか?薬の副作用とか……?」 「いや、さっきまで半獣化の訓練をしていた」 「それって、苦しい時もあるって聞きました」  成瀬は理央から聞いた話で想像した場面を、頭の中に思い浮かべた。  高瀬が苦しんでいる。そう思ったから来たのだ。  龍樹は成瀬の暗い表情に、苦しませた事実はあると高瀬の様子を思い出した。  しかし、得たものもある。 「…………今日の訓練は成功だ」 「大成功だよ。ちゃんと半獣化をコントロールして、人間の姿に戻れたんだよ。多分、自分から半獣化する事もできると思う」 「え……それって、シンさん満月でも大丈夫って事ですか?」 「まだ完全にそうとは言い切れない。抑制剤の効果もあるかと言われれば情報は不十分だ」  龍樹は淡々と高瀬の状況を伝えるが、レオニアは嬉しそうに話していた。 「大丈夫だよ。シンシアは強いから。怖がらなければできるよ」 「怖がる……シンさん、まだ怖いんですか……」  成瀬は眠っている高瀬の頬を撫で、自分が拒否をしたせいかと申し訳なく思った。  ピクリと高瀬の頬が動き、ゆっくりと目が開いた。 「……何で……」 「ごめんなさい起こしちゃって」 「いや……仕事は……」 「今日と明日は連休です」 「そうか……頑張ってるって聞いた」 「はい。今月は成約件数一番ですよ」 「やるな」  高瀬は驚きつつも成瀬の報告を聞いて、ポンと頭を撫でる。  体を起こすと、龍樹とレオニアもいることに気付き多少ばつの悪い顔をした。 「久々の再会なのに色気がないよ、シンシア。仕事の話するの?」 「放っておけ……」  レオニアは文句を言いつつも、熊井が送ってくれた桃があるからと冷蔵庫を開け始める。 「臣、気分はどうだ?」 「悪くない」 「そうか……」 「龍樹、俺は戻れたんだよな?」  高瀬は先ほどの訓練は現実だったのかと自分の手を見つめながら呟く。  龍樹は成瀬に視線を送り、ゆっくりと頷いた。 「良かったですね、シンさん」 「ケン……」 「うわっ……」  龍樹の返事を身体に染み渡らせて、笑顔の成瀬に耐えきれなくなり、高瀬は成瀬を引き寄せ抱きしめた。  久しぶりに腕に抱きしめる成瀬の体は、多少緊張していたが、それよりもその温かさと安心する匂いに高瀬は夢中になった。 「し……シンさん……、みんな居るんですけど……」 「わかってる……もう少しだけだ」  戸惑いながらも成瀬は笑い、久しぶりの高瀬の胸元に顔を埋める。  広い背中に腕を回して高瀬の暖かさにホッとした。  高瀬の腕の力はいつもより強い。  研究所に来る前から体を寄せ合うことを避けていたが、ただこれだけで充分幸せだった事も思い出す。 「これからは、満月でも大丈夫ですね」 「あぁ、ケンの力に頼らなくて済む」  高瀬の言葉に、成瀬はスッと体を引いた。 「……そう、ですよね……」  考えていなかったわけではない。  高瀬が成瀬の存在価値を否定したわけでもない。  わかっているが、高瀬が怖いと思うように成瀬もこの先の言葉を聞くのが怖かった。 「ごめんなさい……俺、まだ来るべきじゃなかった。まだ、シンさんにしてあげられる事見つけられてなくて」 「ケン、そんなのは要らない」 「要らなくないですよ。俺は………………ごめんなさい。あの、理央どっか行っちゃったから探してきます」  成瀬は高瀬の言葉を遮って、無理に笑顔を作り部屋を出ていった。  半獣化の疲れが残っているのか、すぐに成瀬を追いかけることができず、高瀬は言葉を失って項垂れた。 「……何ですれ違っちゃうのこの二人……?」 「好きだと言えないだけだろ」 「……なんで?」 「さぁ?豪ならわかるのかもしれないけどな」 「ルルちゃんに電話する?」 「おい、聞こえてるぞ」  テーブルで桃を食べながら一部始終を見ていたレオニアと龍樹は、ここでハッピーエンドにならない事が不思議でならなかった。  高瀬は二人の会話に不満顔を向ける。  レオニアは桃をベッドまで運んできてやりながら、二人が付き合う前にもすれ違っていた事を思い出す。 「前は二人ともに傷付いちゃったんだなって思ったけど、今の会話聞いてると、実は前も自分たちで勝手に傷付いていただけなんじゃないの?」 「前ってなんだ」 「抑制剤の暴走止めてもらってようやく想いが通じ合ったのに、怖いって言われて二人とも誤解したんでしょ。要するに、Je t’aimeを言えてないんだよね」 「Je t’aime……」 「言った事ある?」  高瀬はあると言いかけて、口を閉じた。  日本語でもフランス語でも、その言葉は言ったことがない。 「同じ意味では伝えてる」 「違う言葉じゃ意味ないでしょ」 「そうだな、伝わってるって思うことがすれ違う原因だろう。特に離れてる時は尚更だ。業務連絡よりまずキスが先だったな」  レオニアと龍樹に言われ、高瀬はぐうの音も出なかった。

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