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第33話 半獣化の力
「シンシア、成瀬くん探しに行ったら?」
レオニアは高瀬の口にフォークで刺した桃を入れながら言う。
「体動くんでしょ?」
「あぁ……でも、ケンは少し考えたいんじゃないのか……?」
「…………愛してるを言いに行くの。それから考えてもらいなよ」
レオニアは盛大にため息を吐いてから、大きくカットした桃を高瀬の口に押し込んだ。
高瀬は何も言えなくなり、もごもごと口を動かす。
その間に皿を片付けたレオニアは、高瀬の手を引いてドアへと引っ張って行った。
ドアを開けようとした時、廊下からドアが開けられ、龍樹が慌てた様子で高瀬の手を掴み走り出した。
「玲央は後から来い!」
そう言いながら走る龍樹に、ただ事ではないと高瀬はしっかりとついていく。
「臣、成瀬くんが窓から落ちそうになっている。昔の研究棟の方だ。今、ハシゴやロープの準備をしている」
ザワッと全身が粟立った高瀬は、龍樹を追い越して古い研究棟の方へと速度を上げて走り始めた。
現場は騒然としていた。
「ケンチ大丈夫?」
「う……うん!なんとか……」
成瀬は壁が崩れた部屋の床に掴まりながら、足をかけられる所はないかと建物の壁を足で探る。
難しいとわかると木に飛べないかと見てみるがだいぶ遠い。
ジャンプ力があると言われる成瀬なら、木の先の細い枝くらいなら掴めるだろうが、それでは成瀬の体重は支えられない。
「まずいな……」
部屋の中からはロープを準備した施設の作業員が数名成瀬を見るが、窓枠と一緒に壁が落ちているため、人が近付けば床が抜けるかもしれない。
作業員はロープを掛けあぐねている。
下からのハシゴも届きそうにない。
成瀬は掴まっている床から、壁の隙間に指をかけて安定をはかろうとした。
「ケンチ、ダメだ!そこガラスが飛び出てる!」
理央の言葉に、成瀬は動かした手を止める。
慌てて捕まる場所を変えたが、触れた瞬間にボロボロと崩れた。
片手の行き場を失って、必死にもう片方の手で壁にしがみつく。
作業員たちのどよめきが聞こえ、成瀬は焦る。
「どうしよう……ケンチ……」
理央は黒猫を抱きながら木の上で成瀬を見つめた。
半獣化をしようとも、成瀬を助けられるほどの力は自分には無い。
しかし、すぐに心配は吹き飛んだ。
風の中に、強い虎の匂いが混じってきたからだ。
「ケン!!」
「シンさん……」
高瀬は成瀬を見つけると、すぐ助けると叫ぶ。
そして長く息を吐いて集中を始める。
「半獣化しようとしてるの?」
理央は木の上から高瀬を見つめ、きつく握られた手に気付く。
「ケンチを受け止める気なんだ」
しかし、高瀬は虎の唸り声は出るものの、体の変化はない。
成瀬の片手が握力の限界に近付いているのか、表情が険しくなっていく。
理央は、木の上から高瀬に向かって叫んだ。
「シンさん!満月のイメージ!頭の中に満月の強い光を思い浮かべれば半獣化できるはずだよ!」
高瀬はその声に顔を上げる。理央の姿を見つける前に、成瀬の必死な顔が目に入った。
「満月……」
普段は見ることも避けているそれを必死に思い出すと、ザワザワと体が変化していくのがわかった。
体温が上がり、体の芯に熱を感じる。
同時にそれは、人を傷つける恐れがあることも思い出す。
しかし、もう怖くはない。
自分の意思で元に戻ることができる。
そう信じて、高瀬は力を受け入れた。
耳と尻尾が出て、肩や腕に力が満ちる。
服の下で筋肉が盛り上がった。
「傷つけるものじゃない……」
自分の手を見て、ギュッと握り、成瀬に向かって叫ぶ。
「ケン、飛べ!受け止めてやる!」
「シンさん……シンさん!!」
成瀬は半獣化ができた高瀬に驚いた。
迷う理由なんてない。
自分の意思で半獣化した高瀬のことを信じられないわけない。
成瀬は躊躇なく飛び降りた。
衝撃はあった。
一瞬だけ息が止まった。
それでも柔らかく、高瀬の腕は成瀬を抱き止めてくれた。
「ケン……怪我はないか……」
「はい……シンさん……ありがとうございます……」
「……良かった……ケン……」
ゆっくりと膝を折り、地面に座りこんで、成瀬を抱き直す。
成瀬も高瀬の背中に腕を回して抱きついた。
成瀬の腕が小刻みに震えているのに気付いて、高瀬は急に恐怖を感じたが、腕の中の温かさに安堵する。
「良かった、本当に……ケン……Je t’aime……」
「じゅ……?」
「愛してる、ケン。他には何もいらない、そばに居てくれ」
「………………はい……」
成瀬は高瀬の胸に顔を埋め、小さく小さく返事をした。
さっきまで悩んでいたことなど本当にどこかへ消えてしまった。
理央は木の上から二人を見つめ、黒猫の頭をゆっくりと撫でる。
二人だけの空間に降りていくのは野暮だろうと思った。
しかし、頭上から不穏な音がして、慌てて二人に向かって叫んだ。
「危ないっ!!」
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