36 / 37

第34話 レオニアの力

 レオニアは生まれてすぐに病気がわかった。  一生付き合う病気で、発作を繰り返す。  両親は一緒に生まれた弟よりも、自分を気にかけてくれていた。  弟もまた、自分を守るように寄り添ってくれた。  父親に言われたからではない。  レオニアが頼んだからでもない。  高瀬がそうしたいと選んでくれていることはわかっている。  レオニアは守られて生きていける環境に、感謝していた。  高瀬が居てくれる。  慣れない日本で、いつ起こるかわからない発作が不安でも、高瀬が守ってくれるとわかっているから、恋をした。  会社を起こしたいと思った。  そして、レオニアが幸せになると、とても喜んでくれた。  でも、高瀬の恋はなかなか上手くいかない。  上手くサポートもできない。  高瀬がやりたいことは全力で応援したい。  この研究所では、高瀬が欲しいものを手に入れさせたい。  そのために、自分もここへ来たのだから。 「危ないっ!!」  遠くでそう聞こえて、すぐに大きな音がした。 「龍樹、今の何?」 「何かが崩れたな。見てくる」 「僕も行くよ」 「……ゆっくり来い。いや、一緒に行こう」  置いていけば必ず走って現場に行こうとする。  龍樹はレオニアの焦る足を抑えながらも、早足で歩いて行った。 「シンさん!」 「ケンチ、危ないよ離れて!」  現場では、崩れた壁が落ちて、高瀬が下敷きになっていた。  瓦礫に近付こうとする成瀬の腕を、理央が掴んで止めている。  崩れた部屋の中では、研究員たちが恐怖で固まっていた。  ハシゴを持っていた研究員は、急いでレスキューを呼ぶように叫んでいる。 「シンシア……シンシアっ!」 「玲央、ダメだ!まだ崩れるかもしれない」  龍樹はレオニアの腕を掴み、それでも止まらない体を後ろから抱え込んだ。 「臣!わかるか?!」 「あぁ、大丈夫だ」  龍樹の声に、高瀬はしっかりと返事をする。  半獣化しているのは見てわかるが、その力を持ってしても瓦礫は動かないのだろう。  龍樹は理央に引きずられてきた成瀬を見て、特別外傷が無いことを確認し高瀬に伝える。  建物の崩壊もひとまずは大丈夫そうだ。 「臣、悪いがレスキューが来るまでしばらく耐えてくれ。半獣化を続けていられそうか?」 「……あぁ……大丈夫だ……」  高瀬の返事は歯切れが悪い。  今日はラボで半獣化コントロール訓練を行っていて、その後眠るほどに体を使ったのだ。どこまで体力が持つかはわからない。 「龍樹さん、どうにも出来ませんか……俺、なんでもしますから」  成瀬は駆け寄りたい気持ちを抑えているのだろう。  冷静になろうと上がる呼吸を整えている。 「今は、レスキューを待つしかない……」 「そんな……」  龍樹は成瀬と同様に自分の無力さに歯噛みした。  すると、抱え込んでいたレオニアの体温が上がった。  半獣化の予兆の一つだ。  レオニアを見れば、目の色が変わっている。 「離して、龍樹。僕が行く」  レオニアはガルガルと唸りながら、ライオンの耳と尻尾を出す。  普段の柔らかい表情から、一気に険しく獣のように変わっていく。  金色の目を光らせて、龍樹の腕を振り解き、高瀬の元へと走り出した。 「玲央っ!」 「来るな、レオニア!」  焦る龍樹と高瀬の声は、ライオンの咆哮で消えた。  レオニアの腕の一振りは、瓦礫の破片を吹き飛ばし、高瀬の上の瓦礫が無くなっていく。 「レオニア、無理するなっ!」 「無理じゃない。限界はわかってる。黙ってて!」  普段のレオニアの動きとはまるで違う、素早く力強く、大きな瓦礫を掴み上げては放っていく。 「玲央………………た、担架……いや、ストレッチャーの準備をしてくれ!二台だ!」  龍樹は高瀬が助け出された先を予測して研究員たちに指示をした。 「大丈夫だ。臣と玲央なら、大丈夫だ」 「そうですね……そうですよね……」  龍樹と成瀬は祈るように二人を見つめるしかできない。  あと少しだ。  大きな塊が外れれば、シンシアが動ける。 「シンシア、もう出られる……ぅっ!……」 「レオっ!」  ガクッとレオニアの膝が折れた。  息が上がっている。  高瀬は龍樹を見て声を上げる。 「龍樹っ!」 「だい……じょうぶ……あと、これだけ……」 「ダメだ!もうやめろ!」 「僕だって……役に立てる……」  レオニアは、瓦礫を掴む手に力を入れる。  大きな瓦礫がギリギリと持ち上がっていき、高瀬との隙間ができた。 「出て、シンシア!」 「……うっぐっ……」  瓦礫を支えるレオニアを心配しながらも動こうとした高瀬は右足に鋭い痛みを感じた。  途端に半獣化は解け、全身の力が抜けてしまう。 「シンシアっ!」  レオニアはさらに力を込めて瓦礫をどかそうとするが、大きな瓦礫は重すぎる。  必死にライオンの尻尾を振って瓦礫を持つ手に力を入れるが、全く動かない。  自分が瓦礫を落とせば半獣化が解けた高瀬は潰れるだろう。  息を切らしながら、動けない高瀬を見つめる。  レオニアの限界も近い。  成瀬と龍樹に助けを求めようと振り返ると、二人はもう、すぐ隣に来ていた。 「シンさん、掴まってください」 「臣、こっちもだ。成瀬くん同時に引っ張るよ」 「レオニアさん?僕も少しなら力になれます」  半獣化した理央がレオニアと瓦礫を支え、成瀬と龍樹が高瀬を引っ張り出す。  無事に高瀬が救出されたのを見て、レオニアは半獣化を解いた。  ヘナヘナとその場に座り込んで、手早く高瀬の状態を診る龍樹の手を目で追った。  なんとか大丈夫そうだ。  途端に激しく息を繰り返している自分に気付いて、地面に仰向けに寝転がり呼吸を整えることに集中する。 「大丈夫ですか?」 「……はぁ……大丈夫。……理央くん……だっけ?……完全獣化できるの……すごいね」 「レオニアさんも、さっきそれになりかけてましたよ。顔がだいぶ違いました」 「……そう?へぇ〜、ライオンになれるかな〜」  ライオンになれたら楽しそうだと笑いながら、カチャンというストレッチャーの音に目を向けた。  ストレッチャーに乗せられた高瀬が、成瀬に手を握られている。  レオニアはそれが、高瀬が求めていた、優しい手だと知っていた。  自分にも、その優しさをくれる相手がいる。  大きくて優しいその手を思い出す。  会いたいな……せんせ……。  高瀬を羨ましく思うと、龍樹がやってきてレオニアの手を握り、事務的に脈を測り始めた。 「……そうじゃないんだよな〜」 「何が……」  龍樹は何が言いたいのか半分ほど察したが、あえて聞かずに聴診器を耳につけ、クスリと笑った。  レオニアの脈は早いが不正な動きは無い。 「無茶するな」 「ごめんね……」  理央は龍樹とレオニアのやり取りを見ながら、変わった人達だと、黒猫を呼び寄せて抱き上げた。

ともだちにシェアしよう!