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第35話 重すぎるプレゼント
高瀬の怪我は、脛骨骨折。
医療設備も備えた研究所内の処置室で綺麗にギブスが巻かれた。
「これで済んで良かったな。半獣化が解けていたら潰されていたかもしれない」
高瀬は研究棟の病室でベッドに寝かされ龍樹の診断を聞いていた。
顔のすぐ横では成瀬がずっと手を握っている。
その手の優しさが嬉しくて、龍樹の話はあまり頭に入ってこない。
「シンさん、痛みますか?ごめんなさい。俺があんな所に居たから……」
「謝るな。お前だってそう言っていただろ」
「……そうですね……そうでした……」
高瀬は少し体を起こして、握られてない方の手で成瀬の頭を撫でる。
「ケンは、どこも怪我は無いか?かなり強い力で抱き止めて、その後投げ飛ばした」
「全然大丈夫ですよ」
ニコリと笑う成瀬の膝には大きな絆創膏が貼られている。
しかし、成瀬にとって擦り傷は怪我に入らない。
「シンシア、僕にありがとうは?」
ベッドの足元からレオニアが少し眠たそうな顔で聞いてきた。
高瀬はレオニアに手を伸ばすと、引き寄せてその手にキスをし「Merci」と真剣に伝えた。
レオニアは目を丸くしたが、すぐにニヤニヤと笑い出す。
「レオニアに何もなくて良かった」
「それは僕も同感だ」
「俺も、安心しました」
高瀬と龍樹と成瀬の一致した思考に、レオニアは半眼で三人を見る。
「そんな顔をするな。本当に助かったと思っている。だから座れ」
「臣の言う通りだ。脈は安定してるが、今日はもう寝ていろ」
「も〜……」
レオニアは大人しく椅子に座ると、向かいにいる成瀬と目が合った。
成瀬は三人の会話に笑いながらも高瀬の手を離そうとしない。
「いいなぁ、シンシア。僕もせんせに会いたいよ」
「じゃあ、帰るか?」
「……何でそうなるの!もう……Je lui parlerai de la bague.(指輪のこと彼に話しちゃうよ)」
「Ne dis jamais ça(絶対に言うな)」
フランス語の会話に成瀬はついていけないが、龍樹は吹き出していた。
理央は興味なさそうに外の黒猫を見ている。
高瀬の焦る様子から、秘密にしたいことなのかなと少し寂しさを感じた成瀬は、ふと話のきっかけにしようと思っていた高瀬へのプレゼントを思い出した。
高瀬の部屋から持ってきていた自分のカバンから、四角い箱を取り出すと、レオニアがいち早く反応した。
眠そうな目がしっかりと開いて、箱を凝視している。
成瀬は何か間違っているかもしれないと思いつつも、高瀬にその箱を渡した。
「シンさん、これ、本当は誕生日プレゼントだからもう少し先なんだけど……」
「プレゼント……誕生日……」
高瀬は誕生日という言葉にハッとしながら箱を受け取る。
とても既視感のある箱に、喜びたいが喜びきれない葛藤を隠して、成瀬にお礼を言った。
「あ、違う。あの、やり直してもいいですか」
「え?」
驚く高瀬から箱を奪うと、成瀬はパカリと箱を開けて高瀬に見せるように差し出した。
「俺、シンさんが、す……好きです。あれ、これ前も言ったかもしれないです……」
「あぁ、言った。何回でも聞きたい。ありがとう、ケン」
「はい」
高瀬は自分の指を見てから、箱の中身を見る。
しかし、首を傾げ珍しく一瞬だけ固まった。
レオニアもベッドの向こうから中身を見て、口元を押さえ顔を赤くしている。
理央は好きだと言った成瀬の言葉に満足そうに笑いながら外を見ていた。
龍樹は、眼鏡を直しながら、成瀬の肩に手を置く。
「成瀬くんは、なかなかハードな思考をするんだね。僕は好きだよ」
「え……えっ、どういう事ですか?あれ、俺、何か間違えました?」
成瀬は箱を持つ手を振るわせながら、全員の反応を一人ずつ確かめるように見る。
箱の中身は、黒いループ型のピアスが一つ。
黒の中に光の加減で紫っぽく光る筋が入る、小さく目立ちづらいデザインだった。
「成瀬くんは、シンシアにピアス開けて欲しいの?」
レオニアの問いに成瀬は笑う。
雑貨屋のレオニアでもアクセサリーを見間違えることがあるのかと、少し得意げに話し始めた。
「いや、まさかそんな、そんなの重すぎますよ。これはイヤーカフです。黒がシンさんに似合うと思って」
「確かにおしゃれだけど、これはピアスだね〜」
レオニアは苦笑しながら成瀬の言葉を訂正する。
冷静なレオニアの言葉に、成瀬は一筋冷や汗をかいて次に信じられないと驚いた。
「えぇっ!?」
理央が外を見ながらクスクスと笑っている。
成瀬が箱の中身を確認しようとする前に、高瀬がピアスを取った。
「龍樹、ピアス開けてくれ。左が良い」
「わかった。消毒して持ってくる」
「やっ、待って!ダメ、ダメダメ!痛いじゃないですか!」
成瀬は針を用意しようとする龍樹を止めようとするが、さっさと処置室の方へと部屋を出て行ってしまった。
「シンさん、これ、交換してきますから。別のものにします。もう一回ちゃんと誕生日に渡します」
「ダメだ。もう貰ったものだ。ケンがくれたんだから、これで良い」
理央が耐えきれないと大声で笑い出した。
「重いよ、二人とも……もう、本当にお互い大好きじゃん」
「本当に。あーあ、僕お昼寝してくる。理央くんも一緒にくる?ふかふかのクッションあるよ〜」
レオニアと理央が部屋を出ていき、室内は一瞬だけ静かになる。
高瀬はばつの悪そうな成瀬に手を伸ばし、腕を広げた。
「ケン、抱きしめさせてくれ。本当に嬉しいんだ」
「ごめんなさい、格好つかなくて……」
「いや、格好つかないのは俺の方だ……」
今、この場で指輪を出すべきだろうが、あいにくボストンバッグの底にしまい込んでしまっている。
自分では取りに行けず、取りに行けてもボストンバッグを漁らないといけない。
高瀬はまた次の機会だと指輪は諦め、成瀬を抱きしめてキスをした。
「シンさん……」
「ケン……」
二人の視線が絡み合い、体の芯からお互いを求めている。
「針、持ってきた……あ、悪い……」
もう一度キスをと思ったところに龍樹が入ってきた。
高瀬は不満な顔を向ける。
「謝ったことは褒めてやる。出て行ってくれ」
「わかった。今無理すると熱が出るからな、ほどほどに……」
「出てけ」
「シンさん……」
いつも通りの龍樹とのやり取りに、成瀬は少しだけ嬉しくなった。
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