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神樹の下でまた逢いましょう 復讐者と弑逆者④ | ヒノヒカの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
神樹の下でまた逢いましょう
復讐者と弑逆者④
作者:
ヒノヒカ
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復讐者と弑逆者④
伊里津
(
いりつ
)
国の国神である神樹は、句地湖と呼ばれる巨大な湖のほとりに在る。湖面へ張り出すように枝が伸び、王宮は神樹を祀る神殿と背中合わせで建てられた。その周囲に都は形成されてきたのだ。 豊かな湖の恩恵を受け、神樹の加護厚きうるわしの都。 そして現在、
照隅
(
てるすみ
)
はその都から馬で十日の辺境で、文字通り右も左も分からない状況にあった。 「とりあえず、どっちに行くかを決めないとな」 謎の襲撃者の痕跡を手早く改めながら照隅は言った。
阿茲迦
(
あじか
)
が頷く。 「逃げたようですが、援軍を連れて戻って来ないとも限りませんし、夜になる前に移動しましょう」 「元きた山に戻るっていうのは?」 何気なく言ってみた照隅は、阿茲迦が一瞬、その無表情を微かに歪ませたのを感じた。 「……親王殿下は山を甘く見すぎですね」 (もしかして、今のは呆れられたのか) 珍しいものを見た気分で眺めていると、阿茲迦がさっさと川下に向けて歩き出した。照隅が大股でついて行くと、手を伸ばして木立の向こう、遠く聳える山並を指さす。 「あの山はホコノロと呼ばれる霊峰です。位置関係から考えて恐らく現在地は金虫周辺でしょう。この辺りは雨が少ないですから、川を下って行けば人里にたどり着く可能性は高いです」 「詳しいな。この辺りには来たことがあるのか」 「北方の出身です。ここよりもっと、山の方ですが」 少し、声が硬いような気がした。 巫はどこの豪族にとってもきわめて重要な資源だ。親元から無理やり引き離される者も多いと聞く。 照隅は
本
業
の一環として、有力な巫の来歴は一通り把握しているが、阿茲迦に関しては十五年ほど前に都にやって来るまでの記録が存在しなかった。素質がずば抜けて高かったために巫司に引き抜かれたのだろう。 それから黙って、どれほど歩いただろう。照隅は川面に目を留めて立ち止まった。 「見ろ、あれ」 ここまで来ると川幅はかなり広くなり、その分浅くなってきている。その流れの中に、積み石と木で作った柵で罠が取り付けられていた。雑なやり方だが、小さな囲いの中には川魚が鱗を光らせて泳いでいる。 阿茲迦がつい、見入っていると、ガサガサと近くの木立が揺れて、奥から二人の若い農夫が現れた。 「見たことねえ男だな、山賊じゃねえのか」 「こんな目立つ装束の山賊がいるかい。あんた、どこのかんなぎ様だね? その辺のまじない師じゃないだろ」 のんびりした口調で問いかけられて、阿茲迦は少し表情を緩めた。 「驚かせて申し訳ない。川に落ちて流されてしまったんです。ここはなんという土地でしょうか?」 「それはまた……。ここは葉津加だよ、金虫の北だ」 「金虫の北ということは街道へはどう行けば?」 「この林を抜けたら俺たちの村が見える。村の周りは開けてるから、西南へ半日ほど歩けば街へ通じる大きな道に出れるよ」 ありがとうございます、と言った阿茲迦が口を開いたままピシッと停止する。さり気なく背後の木立に身を隠していた照隅が二人の農夫の後ろから音もなく歩み寄り、立て続けに首筋に手刀を叩き込んだのだ。 「よし、日が落ちる前に少しでも進むか」 「何をしているんですか!」 意識を失って崩れ落ちた農夫たちを地面に下ろして服を脱がせ始めた照隅に阿茲迦が声を荒げた。慌てて駆け寄ると二人の口元に手を当てる。 「こいつらの服を拝借するんだよ。この格好はこんなど田舎じゃ目立ちすぎる」 「だからっていきなり意識を奪う必要はないでしょう」 「何だ、口封じに殺した方が良かったか?」 「親王殿下‼︎」 照隅は挑発するような笑みを浮かべて阿茲迦を見た。 「国があってこそ民は生きられるのだ。国の大事にはこの程度の犠牲、数のうちにも入らんだろう」 「……犠牲は避けられないとしても、それはよほどの選択であるべきだと考えます。『彼らの口から敵に我々の居場所が漏れるかもしれない』程度の懸念で、人の命を奪うべきではありません」 「つまりお前が兄上を殺したのは『よほどのこと』があったからなんだな」 その言葉に、確かにたじろぐ気配がして、しゃがみ込んだまま照隅は阿茲迦の手首を掴んだ。 (しばらく一緒にいてわかった、こいつは見た目ほど無感動じゃない。揺さぶればボロを出す) 「まあ、お前の仕出かしたことの余波でこれから何が起きるかお手並拝見ってところだな。死ぬのが百人やそこらで済めばいいが」 爪の下に引き据えた獲物をいたぶるように、わざとらしく優しい口調でそう言ってやる。掴んだ手首から阿茲迦の震えが伝わった。 しかし、それでも阿茲迦は、照隅の眼差しから逃げなかった。 「私は私のすべきことをして、その結果起きた全ての責任を背負うのみです」 「……そうか」 ハッと笑うと、照隅は手を放した。 大言壮語にも程がある。千年に一度の大巫の器だか何だか知らないが、自分には世界を救う力があるという誇大妄想でも抱いているのだろう。生まれ持った才能に良識が見合うとは限らないのだから仕方ない。 後ろを向いたまま着替えを終え、着てきた装束の中の目立ちそうなものは藪に放り込むと照隅は歩き出した。しかし、阿茲迦がついて来る気配は無かった。 仕方なく振り向くと、阿茲迦はまだ地面に横たわる農夫たちの側にしゃがみ込んでいた。何かきらきら光るものを農夫の手首に巻き付けて固定しようとしている。それが何か分かってしまって、うんざりしながら照隅は引き返した。 「待て待て待て! その数珠の宝珠一つで都にでかい屋敷が一軒建つんだぞ⁉︎ 正気か、お前」 「ですが、魚も獲れず服も奪われては家族もろとも飢えるかもしれません」 「っあーーー、もう! わかったよ!」 照隅は舌打ちをしながら胴に巻き付けた布帯をつまむ。縫い目の粗いところを解くと中から薄い布袋が現れ、中身が手のひらにこぼれ落ちる。いずれも金製や銀製のちょっとした金目のものだ。その中から一対の銀の耳輪を摘み上げると、川べりの枯草の茎を引き抜き、耳輪を通して一つずつ、農夫の手首に括り付けた。 「これでいいだろ。都でも若い馬を一頭は買えるぜ」 ホラ取っとけ、と数珠を阿茲迦に押し付けると、阿茲迦は戸惑ったような顔をして数珠を見つめて、 「ありがとうございます」 と、言った。
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