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第2話 吉宮SIDE
あの夜から、道野とはズルズルと体の関係が続いている。したくなった時に連絡をして、ただ体を重ねるだけ。そのほとんどは道野からの誘いで、俺から連絡したことは一度もない。
そして、彼を抱いて気づいたことがある。
女性の体を見ても今までさほど興奮しなかった俺が、道野の体を見ると驚くほどに欲情するのだ。
自分が男にいける口だとは思っていなかったが、そう考えると今までの女性からアプローチされてもさほど嬉しくなかった感情に理解ができる。
一方で、道野がなぜ俺のことを受け入れてくれるのかは分からないが、多分ちょうどよかったのだと思う。
そこそこ顔の良い男で彼女なし。そんな優良物件が目の前に転がっていたのだから、ただそこに乗っかった。
実際道野は経験豊富に見えた。こちらは何も経験がない童貞だったため、初めて体を重ねたときはリードしてもらった。
「ここに指を入れて優しく動かして」「口でするときは裏筋を舐めて」などと艶のある声で言われたものだから、さらに大きく硬くなったものだ。
そして気が付けば彼のことを好きになっていた。社内で見かけたときは無意識に目で追い、彼に触れるたび心臓が破裂しそうなほどにどきどきする。
この歳になって初恋をするなんて思わなかった。しかし俺たちはただの「セフレ」。好きだ、とどんなに伝えたくても言葉にする勇気はなかった。
*
その日も、俺の家で体を重ねた。
「あぁ……っ! 待って、もうイク、イクからぁ」
いやいやと首を振る道野を黙らせるように唇を重ねる。
「んん……っ、ぷは」
はぁはぁ、と荒い息を繰り返す。
「吉宮……最初はうぶでへたくそな童貞だったのに、気づいたら上手くなり……っ、あああ!」
そのあとの言葉が続くことはなかった。ラストスパートというように腰を前後に激しく打ちつける。
ぱんぱんという肌と肌が触れ合う音と、俺の乱れる呼吸、そして甲高い道野の声が部屋を満たしていた。
「出る……っ」
「んんん……っ! はぁ、はぁ、はぁ……」
全身をのけ反らせながら果てた道野は、憔悴し切ったように胸を上下に動かしながら荒い呼吸を繰り返していた。その横に寝転がり、同じく呼吸を整えようと深く息を吸う。
その後、彼にしてはめずらしくベッドの上でまどろんでいた。いつもなら行為が終わった後すぐにシャワーを浴び帰ってしまうのに、今は瞳を閉じて俺の腕の中で眠っていた。
絹のようにサラサラとした手触りの髪の毛を優しく撫でた。こうやって気持ちよさそうに眠っている姿を見ると、思わず守ってあげたくなる。
彼を泣かせるもの、苦しませるものから守ってあげたい。そんな資格は俺にないのに、勝手にそう思ってしまう。
一回、冗談で「好き」って言ってみようか。彼なら「やめてよ。急にどうしたの?」なんていつもと変わらない余裕のある笑みで答えてくれるかもしれない…………いや、もしそんな反応が返ってきたら、俺のことをどうも思っていないのが明らかだ。
「ん……」
ふいに道野が身じろぎし、二、三度瞳を瞬かせた。
「起きた?」
「俺……」
まだ完全に覚醒していないのか、ぼーっとしている。
「もしかして、今日疲れてた?最後のほう、ほとんど意識とんでたし」
「あ……ご、ごめん。もしかして寝ちゃってた?」
めずらしく慌てている様子。今日は初めて見る彼の姿がいっぱいで嬉しくなった。
「別に大丈夫だよ。もうそろそろ日付超えるし、今日は泊まってく?」
少しの期待を込めて聞いてみたものの、道野は複雑そうな表情を浮かべた。
「いや……申し訳ないから、帰るよ」
そう言ってベッドから出て、脱ぎ捨てられた下着に手を伸ばした。線の細い体が衣類に包まれていくのをぼーっと眺めた。
その体に触れている時は、手も、髪も、声も、全部が俺のものに感じるのに、魔法が解けたら煙のようにあっけなく消えてしまう。
やっぱり彼にとって俺はただのセフレなのだろうか。
嫌だ、帰したくない。
「………っ! 吉、宮……?」
気がついた時には、後ろから彼のことを抱きしめていた。道野が驚いたように声を上げる。香水なのか、洗剤なのか、柑橘系のいい匂いが鼻腔を掠めた。
道野のことが好き。
口まで出かかる言葉。
でも、この関係を終わらせたくない。言葉にして彼と関係が切れるようなことになれば、それは俺の本意としているところではない。
困らせたくない、悩ませたくない、気を使わせたくない。それなら、このまま何も言わない方がいいのかもしれない。
「……また明日ね」
結局、口から出た言葉はそれだった。
「うん、また明日………おやすみ、吉宮」
「………おやすみ」
道野はいつもの美しい笑顔で笑い、腕の中をすり抜けていった。
どこかのおとぎ話のように、十二時になると消える彼。
君のガラスの靴を脱がすのは、俺だけであってほしい。
そう願うけれど、口に出す勇気はやっぱりない。
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