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第13話 第三章(4)
業務終了は世羅がオフィスから出てきて変えることを知らされた。車のキーを渡され運転するように指示され、運転も護衛とセットで黒龍の仕事に入るのだと悟った。そのことに文句を言うつもりはない。自分で運転した方がはるかに仕事はしやすい。
世羅のマンションは21階建ての高層ビルの最上階、ペントハウスだった。21階は世羅の部屋しかない。2台あるエレベーターのうち1台しか21階には行かない仕組みだ。エレベーターを降りると右手に玄関があった。
世羅の後に志野と黒龍が部屋の中に入る。
「なんか、モデルルームみたいだな。とにかく全部の部屋見せてもらうよ」
「好きにしろ。リビング奥のドアに入ると書斎、マスターベッドルーム。バスルームがある。その横がランドリールーム、ジム、で、ベランダに出ると横にあるドアからキッチンに入れる」
「おっけ!」
頭の中で世羅の言葉を繰り返しながら、部屋を見ていく。窓は全てフィックス窓で開けることはできない。窓からの侵入は無理。バスルームのジャグジーの天井近くに設置された窓は横に細長く、引き戸で開く仕組みになっている。ここから侵入できるのはそうとう訓練を受けていないものでないと無理がある。
ランドリールームのドアを開けるとジム用の部屋になっており、壁全体フィックス窓だった。ベランダがある方のガラスの引き戸を開け外に出る。
見渡す限り高層ビルの摩天楼。21階からの景色は爽快だ。侵入できるとしたらこのベランダからだろう。プロならばジムの部屋のガラスの引き戸を切り取って鍵を外すことが出来る。
キッチンへつながるドアノブを掴む。鍵を開けておいてくれたのかすんなり開いた。
「ジムの部屋のガラスのドアにだけ、ガラスが壊された時に反応するように仕掛けをする必要がある。あと、このドアの鍵閉めるの忘れないようにね。もしかしていつも閉めてないの?」
「21階だからな」
何を馬鹿なことを言ってるんだと言うような少し呆れた表情で世羅が言う。
「21階でも、登れる奴はいるぜ。俺とか。あと、プロの泥棒さんもロッククライミング得意なんじゃない?」
「そんなに心配なら窓全部に仕掛けでもしろ。しかしほとんどの窓は嵌め殺しの窓だから開かないがな」
「嵌め殺しって。何ちゅう卑猥な言葉だよ。フィックス窓って言ってよ、世羅さん。世羅さんが言うとまじ変態っぽいから」
渋面以外の世羅の表情を引き出したくてからかったのだが、黒龍の期待通りにはならず、スルーされる。
「志野、黒龍にはこの後、純奈に会わせて帰ってもらう。お前はもう終わっていい」
「かしこまりました。では明日8時に。黒龍も明日は8時に社長を迎えにここに来るように。私はこの下の20階のAの部屋に住んでる」
「えっ? なに同じマンションに住んでんの? あんたらやっぱりできてんじゃないの?」
二人同時に眉間に皺を寄せている表情はなかなか息が合っている。
「またそれか。このマンションはうちの会社が所有している。引っ越しを考えてるなら相談に乗ってやるぞ」
志野の苛立った声になぜか黒龍はウキウキとし嬉しくなる。志野は表情も乏しく神経質なエリートリーマン風なのに、よく見ると表情豊かだ。それに対して世羅は一筋縄ではいかない。
世羅の瞳がどんなことにも動じず落ち着いていて、暗いことが気になって仕方がなかった。女の前ではポーカーフェイスが崩れることがあるのだろうか? セックスの時どんな顔していくのだろう。下世話な妄想が止まらなくなりそうになり、黒龍は邪な思考を払拭するために咳払いをした。
丁度その時、玄関のチャイムが鳴った。
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