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第14話 第三章(5)
純奈は目鼻立ちのはっきりした美人で30代前半に見えた。もしかしたら世羅より年上と言うこともあり得るが、女の年齢ほどわかりにくいものはなく予想しがたい。
身長は170センチ未満、細い手足、豊かな胸と、形の良いヒップライン、抜群のスタイルをしている。漆黒の髪は耳の下で切りそろえられ、前髪も眉毛が隠れる辺りで揃えて切ってある。ウィッグかと思うほど完璧に整えられたボブスタイルだ。
総レースの黒の体にフィットしたワンピースが彼女の色香に妖艶さを加えていた。
玄関を開けた黒龍には目もくれずに我関せずと部屋の中に入っていく。リビングの高級シープ革の柔らかい白のソファに座ると脚を組んだ。横に立っている黒龍にやっと気が付いたのか、黒龍を観察するようにしげしげと眺めた。
世羅がシャンパンを持って純奈の横に座ると視線を世羅に向け、甘えるように肩にもたれかかりキスをせがむ仕草をする。
二人が挨拶のキスとは言えない濃厚なキスを終えるのを黒龍は辛抱強く待った。
クチュクチュと淫靡な水音をさせ舌を絡ませあっている。見ているこっちがぞくぞくするほどエロいキスだ。世羅の顎の動きから目が離せない。神経を逆なでされ、苛立ちが増した。
純奈の方がしつこい世羅のキスから逃れるように黒龍の方へ顔を向けた。
「で、このこがあなたの護衛の黒龍なわけね。若いわね。いくつ?」
世羅は純奈の肩を抱き、腰に手を回し体を密着させ、首筋に顔を埋めて女の柔肌にキスをしている。黒龍の前で純奈を裸にしそうな勢いだ。
「28です」
「名前は?」
「黒木龍一です」
いい加減嫌気がさしてきた黒龍は、硬い声で本名を告げた。特に本名を隠しているわけではないのだ。
「黒木……ああ、それで黒龍なのね。あなた瞳がサファイアみたいな色ね。本物?」
「はい。母は日本人ですが。父は外国人なので」
純奈が納得したと言うように頷いた。
「それだけ美形だったら、何も護衛なんて仕事しなくても世界的に活躍できるモデルにもなれたでしょうに」
「興味はないです」
黒龍の返事に更に興味を掻き立てられたのか純奈の瞳がキラキラ輝き出し、少し前のめりになる。世羅はその様子を純奈の体を弄りながら観察している。スカートのスリットから手を差し入れ股を撫でまわしている。
モヤモヤとした嫌悪のようなものが膨れ上がる。
「何に興味があるわけ?」
「銃です。銃の改造が趣味でして、そもそも自分は武器ディーラーなので」
「人って見かけによらないのねぇ。でも面白いじゃない。気に入ったわ。今度うちの店に来て頂戴。いいでしょ世羅さん」
「ああ、近々連れて行くよ。だが、こいつはホモだぞ」
プッと吹き出しそうになるのを寸前で止める。はっきりと『ホモ』と言われたのは、28年の人生で初めてで、なかなか新鮮だ。しかも黒龍がゲイだと言うことを世羅が知っていたことの方が驚きだった。
「あら、まぁ、でも女の子たちと楽しくやるのは大丈夫でしょ?」
「ええ、まぁ普通に」
「うちはほとんど外国人ホステスなのよ。特にロシア系のお人形さんみたいなブロンド美人が多いわね」
黒龍の瞳がきらりと光った。ロシア系に反応したのだ。
「いいですねぇ。ロシア系美人は好きですよ。そう言う純奈さんもどことなくロシアと中国の国境沿いあたりの黒髪のロシア美人ぽいですね」
うふふふ――と、意味深に純奈が笑った。しかしその目は鋭く光っていることを黒龍は見逃さなかった。
「黒龍もう下がっていい」
しびれを切らしたのか棘のある世羅の一声で黒龍と純奈の会話は打ち切られた。
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