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第17話 第四章(1)
世羅の護衛に就いて1週間がたとうとしていた。
黒龍は都内の大学病院の廊下を世羅と一緒に歩いている。
世羅はほとんど社長室から一歩も出てこない。閉ざされた部屋の中で何をしているのか想像するしかない。ぼそぼそと話す低い声が絶え間なく聞こえるということは、誰かに指示を出し
続けている様子だった。その間、黒龍は田中と的場の訓練をスケジュール通りにこなした。二人とも意欲的で、特に的場は呑み込みが早い、大柄な田中よりも機敏に動ける。
後は射撃の腕だがそれは二人ともいまのところ似たり寄ったりの腕前だった。
送り迎え、昼食のお供以外、世羅と接触することはなかなかなく、話をする機会もない状態だった。その世羅が今日、珍しく社長室から出てきて「嘉納組長に呼ばれた。今から病院へ向かう。黒龍を連れて二人で行くから、志野は残れ」と言った。
そういうわけで、黒龍は世羅と二人で、嘉納組長の個室へ向かっているのだった。
部屋のドアの対面の壁面に黒ずくめの男が5人、怖面の眉間に深い皺を寄せ立っているのが見える。そこが嘉納組長の病室だと物語っていた。
世羅が男たちに目くばせをしただけで、何も言わず、直接ドアの前まで行き、名を名乗った。ドアがスライドし開き、世羅が中に入ると、黒龍はドアを背に仁王立ちする。対面の壁にずらりと並ぶ黒スーツの組員をサングラス越しに観察した。黒のサングラスをしているので黒龍の目の動きを相手に見られることはない。病院内で乱闘を起こすほどバカではないだろうが牽制はしてくる可能性はある。任侠映画に出てくる極道ならそうなるだろうと黒龍は想像していたが、彼らは一向に持ち場を動く気配も話しかけてくることすらなかった。
なかなか躾けられた犬らしい。
しばらくたって黒龍はそんな風に嘉納組長の部下を評価した。その時、また黒い団体が近づいてくるのを目の端に捕らえる。
「おい。てめぇ、ドアの前につっ立ってたら邪魔なんだよ」
男が声を張り上げた。
目の前に並んでいる嘉納組の一人が近づき、わざとなのか、囁き声で相手の耳元で呟いた。
「松尾組長、只今、世羅が組長と話されてまして」
「なに? 世羅だと? 俺より世羅が大事だっていうのか!?」
やたら声のデカい男だ。つまり肝は小さい。黒龍は勝手にアナライズして楽しんだ。
「組長が世羅さんを呼んだので……」
なかなか嘉納の手下は出来るらしい。と、黒龍は判断する。偉そうにやってきたこの男が松尾だと言う事は理解した。第一印象は最悪だ。声を張り上げて罵倒すれば自分のわがままが通ると思っているガキと同じ。いや幼児と同じだ。この男から世羅の命を護るのかと思うといささかやる気が不貞腐れて業務放棄をしてしまいそうだ。
「で、こいつは何だ?」
黒龍を顎で指し、相変わらずのバカでかい声で嘉納組の部下に偉そうな口を叩く。
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