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第16話 第三章(7)
「お前ってやつは、諦めの悪い。世羅はノンケなんだから、どんなに色っぽくてきれいな男でも寝ることはない」
「ははっ、全く残念。だけどさ、人生何が起こるかわかんないし。諦めないね。だってさ、世羅さんのポーカーフェイスが崩れるところ、見たいしさ」
志野の哀れな可哀想な子を見るような視線にさえ、なぜか温かいものを感じ、志野といることがとても居心地がいいのだと黒龍は気づいた。
「お前は突拍子ないな。ゲイだと自覚したのはいつからだ?」
やっと笑いの発作が収まり、焼きそばをすすっていた時そう聞かれた。考えてみる。確か初恋が男だったのだ。
「うーんとね。俺の母親日本人なんだよ。10歳まで日本にいたんだ。シングルマザーでさ。お母さんには弟がいてね。よく遊んでもらったんだ。その当時高校生くらいじゃなかったかな。その人が初恋。と、後から気づいて自分は男に恋愛感情を持つ生きものだと悟ったわけ」
ちらっと志野の方を見ると真剣な表情で何やら考え込んでいる。
「そう言う志野さんは? 自分がゲイだと確信したのはいつよ」
一つ深いため息をつく。しかし志野は否定しなかった。
「世羅に出会ってから……かな」
水を打ったような静寂。数秒だったに違いない。こんな時の静寂は耐えられない。
「なるほど。俺のライバルだな」
黒龍の反応が気に入ったのか、初めて志野が本気で笑った。おなかを抱えて。その姿に最初は驚愕したが、じわじわと喜びが込み上げてくる。志野の内面を引き出せたことに歓喜したのだ。
「いや、今は違う。今は世羅と寝たいと思わない」
「あ、そ。じゃあ彼氏いるの?」
「いや、いない」
「てことは、俺と同じようにワンナイトスタンドなんだ」
志野の瞳が笑ったことでしっとりと潤んでいる。目尻の皺も年相応で、なかなか味がある。そんな風に黒龍は感じた。
「その方が楽だからな。人間関係を築き上げることが出来る環境にないしな」
なるほど、それは黒龍にも言える。ヒットマンと言う職業柄、一般人と真剣なお付き合いは鼻から無理だと拒絶しているし、一晩限りの関係の方が確かに気持ち的に楽だ。志野のことが明確に理解できる。
「面倒見が良くて、料理もできて、イケオジなのにもったいないね~」
志野がまた喉を鳴らして笑った。
「それ食べたら、空いている部屋、見に行くか」
「お、いいね~。話が早いと助かるよ」
「確か、3階のメゾネットタイプが空いてる。入ってリビング、螺旋階段を登って2階部分がキッチンとトイレ、3階部分がベッドルームとバスルームになる」
「そこはあれ? 世羅さんとかここみたいにフィックス窓なわけ」
「いや、16階までは普通に開く」
「いいねぇ、興味ある」
黒龍は焼きそばを頬張りながら親指を立てた。
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